「これくらいは、いいでしょ!?」…創業から苦楽を共にした48歳部長の裏切り。〈850万円の不正経費〉が発覚、社長が直面した「会社分裂の危機」【社労士の助言】

「これくらいは、いいでしょ!?」…創業から苦楽を共にした48歳部長の裏切り。〈850万円の不正経費〉が発覚、社長が直面した「会社分裂の危機」【社労士の助言】

「850万円の不正」が判明…問い詰めた先で見せた“驚きの反応”

川崎社長は最初、「あいつに限ってそんなはずはない」と信じようとしませんでした。しかし、経理担当が過去のデータを徹底的に精査した結果、衝撃の事実が明らかになります。

土田部長は過去5年間にわたり、実態のない架空の地方出張を捏造して新幹線代やホテル代を請求していたほか、毎年の家族旅行の費用(1回あたり約30万〜50万円)を「研修費」や「交際費」として会社に回していました。

その総額は、判明しただけでも850万円にのぼります。

川崎社長はすぐに土田部長を社長室に呼び出し、証拠を突きつけました。しかし、返ってきたのは謝罪ではありませんでした。顔を真っ赤にして、土田部長はいいました。

「俺がこれまで、どれだけ現場を守ってきたと思ってるんですか! たいして給料も高くもないのに、休日返上で文句もいわずにやってきました。俺の働きを考えたら、これくらいはいいでしょ!? 文句があるなら、俺は現場の人間を全員連れて会社を辞めます」

現場の職人たちは土田部長を親分のように慕っていたため、下手に動けば職人が一斉に退職し、会社の操業がストップしかねません。会社が真っ二つに割れる危機のなか、川崎社長は頭を抱えました。

「あいつだけは、なにがあっても絶対に裏切らないと思っていたのに……」

川崎社長の脳裏には、創業当時の記憶がよみがえっていました。ろくに寝る間もなくトラックを走らせ、一緒に泥水をすするような思いで会社を立ち上げた、苦楽を共にした仲間でした。

「彼のことだからきちんと仕事してくれているだろう」という心理的バイアスが、結果的に5年間で850万円という巨額の不正を生み出す温床になっていたのです。

【社労士が解説】人間が不正を働くようになる「3要素」

中小企業において、経営者が創業時からの仲間を信頼すること自体は素晴らしいことです。しかし、「信頼」と「放任(ガバナンスの欠如)」はまったくの別物です。

米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシー「不正のトライアングル理論」によれば、人間は以下の3つの要素が揃ったときに不正を働くとされています。

1.動機・プレッシャー:給与への不満、個人的な金銭トラブルなど

2.正当化:「自分はこれだけ会社に貢献しているのだから、これくらいもらって当然だ」「後で返すつもりだ」という自己弁護

3.機会:「誰もチェックしていない」「自分の一存で決裁できる」という環境

今回のケースでは、土田部長のなかに「サービス残業や休日出勤への不満(動機・正当化)」があり、さらに川崎社長がノーチェックだったこと(機会)が、不正が5年間も続いた原因と考えられます。

役員や幹部だからといって、彼らは決して「聖人君子」ではありません。ルールなき信頼は、結果として会社を支えてきた大切な社員を、横領や詐欺を行う犯罪者に仕立て上げてしまうリスクを孕んでいるのです。

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