
◆デビュー時の名前への想い

牧村彩香(以下、牧村): はい。「牧村彩香」という名前は、私が最初にデビューした時に、メーカーさんにつけていただいた大切な名前なんです。とても綺麗で、どこか上品な雰囲気があって。面接をした時の私のキャラクターや空気感をしっかり受け取ってくださった上での名前だったので、私自身とても愛着がありました。
ですから、活動を再開するにあたって、また改めてこの原点である名前を使わせていただくことになりました。ただ、改めてはっきり言っておきたいのは、セクシー女優としての再始動ではないことです。
――ファンにとっても非常に嬉しい帰還だと思います。まずは2018年のデビューから引退に至るまでの歩みを教えてください。
牧村: 私のデビューは2018年の2月になります。それから約3年間、同じ事務所に所属していました。流れとしては、最初に専属のメーカーさんを2つほど経験させていただいて、その後に企画単体の作品へ移っていったという形ですね。その後、2つ目の事務所に移籍したタイミングで一度芸名が変わったのですが、そこから今度は体に癌が見つかってしまって引退……という流れになります。
――なるほど。牧村さんといえば、やはり「40歳過ぎの子持ちの主婦が、セクシー女優として鮮烈デビュー」という衝撃的な売り出し方が印象的でした。世間のファンも、それが彼女のリアルなんだと信じ込んでいたわけですが、実際のところはどうだったのでしょうか?
牧村:ふふふ、そんなわけは全くなかったんですよ。これはもう、私自身も撮影当日に現場に行って「開けてびっくり」というような状態だったんです。撮影には必ず台本というものがあるのですが、私はその撮影初日に渡された台本を見て、初めて自分のプロフィールを知ったんです。
――自分のプロフィールを現場の台本で初めて知る、ですか?
牧村:そうなんです。台本を開いたら、当時の私の実年齢とは違い、かなり年上の設定になっていて。「牧村彩香・40歳」って書かれていたんですよ。それを見た瞬間は、正直なところ「えっ……!?」とショックを受けたというのが本音でした。実際には結婚もしておりませんし、子供もおりませんから。「これは一体どういうことなんだろう」という戸惑いしかありませんでしたね。ただ、台本には「牧村彩香はこういう人物ですよ」というプロフィールが事細かに書かれていて。画面の前のユーザーの皆さんは、きっと私が本当のことを喋っているんだろうという見方で作品をご覧になると思うんですけど、私はあくまで台本通りに、その設定の通りに必死に喋っていただけなんです。
◆突然課せられた「熟女」という虚構の設定

牧村:それはもちろん自分の意思です。当時、深夜番組で『恵比寿マスカッツ』がすごく盛り上がっていた時代だったんですね。番組にはたくさんのセクシー女優さんたちが出演されていて、バラエティ番組としてテレビで大活躍されていたんです。普段はセクシーな作品に出ていらっしゃる方が、バラエティに出るとここまでキャラクターが変わって、こんなに面白くて歌も上手いんだ!というギャップがすごく新鮮で。セクシー女優さんがちょっとアイドル化したような時代だったんです。
――確かに、当時は彼女たちをアイドルと同じような目線で応援するファンが急増した時期でした。
牧村:はい。それに当時、私の普段の雰囲気が、著名なセクシー女優さんに似ていると周囲から言われることがよくありまして。『恵比寿マスカッツ』を見ながら、「私もこういう世界でちょっとやってみたいな」と、あの華やかなアイドル的な雰囲気に憧れて、自分から事務所の門を叩いたんです。
――つまり、最初はアイドル的な、華やかで可愛らしいイメージでの活動を想像されていたわけですね。
牧村:そうなんです。自分の中でもコスプレが元々好きだったり、ちょっとアイドルチックなことがしたいという気持ちが根底にあったので、そういう活動ができる場所なんだろうなと思い込んでいたんです。もう知識がなさすぎて、今思うと恥ずかしいくらいなんですけど(笑)。まず、業界に「熟女枠」というカテゴリーが存在することすら、当時の私は全く知りませんでした。まだ世間的にも、今ほど「熟女ブーム」が一般化して全面に出ていた時期ではなかったですし、自分の年齢的な感覚から言っても、熟女って、50歳くらいからのご婦人のイメージがあったので。下手すれば孫がいるみたいな感覚でして。自分が熟女枠ということに違和感はありました。
――自分の声のトーンやキャラクター的にも、当然アイドル枠のような売り出し方になるだろうと。
牧村:私の声って元々ちょっと高めですし、体も小柄ですし。「よし、アイドル枠で頑張るぞ!」と思ってメーカーの面接、いざ撮影初日、蓋を開けてみたら「40歳の熟女」になっていたわけですから(笑)。私は元々の性格がものすごく細かいというか、何でもストレートに受け取ってしまうところがあるので、「えっ、私ってそんなに老けて見えるのかな……」と、自分の容姿のことにまで結びつけてしまって、しばらくは本当に悲しくなってしまいました。メーカーさんがどういう意図や計算で私を40歳として提示してきたのか、当時はそのメカニズムも全く分からなかったので、プロフィールの文字を見て、ただただショックを受けた撮影初日でしたね。
――当時は「熟女ブーム」のまさに黎明期でした。本来なら若々しくて可愛らしい小柄な女性が、実は「子持ちの熟女」であるというギャップこそが、当時の市場に強烈に刺さるというメーカー側の高度な戦略だったのだと思います。
牧村:メーカーさんとしては、きっとそういう狙いを持った売り出し方だったんでしょうね。でも当時の本人としては、「ロリ熟女って一体何なんだろう…」って、頭の中にハテナがいっぱい浮かんでしまって。結果として作品がバーンと世間に売れたのはありがたいことだったんですけど、私の精神面としては、かなりショックの大きい撮影でした。男優さんとの絡み自体には何の問題もなかったんですけど、とにかく「牧村彩香」という虚構のプロフィールそのものが最初の衝撃として大きすぎましたね。
――撮影初日に渡された台本のプロフィールには、具体的にどんな内容が書かれていたか覚えていますか?
牧村:覚えている限りでは、本当にシンプルな箇条書きのようなものでした。私の生年月日(作られたもの)、家族構成、どこの出身か、あとはこれまでの経験人数……本当にそれくらいです。あとは「旦那さんは普段何をしている仕事の人か」といった設定くらいですね。いわゆる「初撮り」というドキュメンタリータッチの演出がメーカーさんの基本なので、最初から最後までセリフがキチッと決められているわけではないんです。そのプロフィールを頭に入れたら、「あとはインタビューから本番まで、全体の流れでいきましょう」という感じの撮影でした。

