◆ファンとの距離を大切に。そんな想いから始めた独自イベント

牧村:うーん、そうですね……(苦笑)。お金(ギャラ)のシステムに関しては、本当に女優さん一人ひとりによって全く金額が違う世界なんですよ。誰もが名前を知っているような、完全にタレント化・アイドル化している超有名トップ女優さんたちであれば、それはもう一般人が驚くようなギャラが支払われていると思いますし、私とは全く話が違ってきます。
私個人のリアルな感覚としては、「まあ、私の知名度やポジションなら、これくらいの金額なのかな」というラインでした。本当に人によって金額の桁が違いますから、「なるほど、これがこの業界の現実か」と冷静に受け止めていましたね。それを「1日でこれだけ貰える」と換算するか、「作品2本分の膨大な労働の対価としてこれだけ」と換算するかで捉え方は変わりますけど、少なくとも「普通に贅沢せず生きていける金額」ではありました。ただ、私は他の女優さんたちのリアルなギャラ事情も小耳に挟む機会があったので、それと比較してしまうと「私はトップクラスなんてとんでもない、まだまだ全然下のほうだな」と思っていました。周りが想像しているような派手な稼ぎ方では決してなかったですよ(笑)。
――当時、人気女優でありながら「少人数のファンと直接アットホームに会食(食事会)をする」という企画を頻繁に開催されていました。これは事務所が主導してセッティングしてくれたイベントだったのですか?
牧村:いえ、とんでもない! あれは全部、私が完全に「個人」で企画して、立ち上げたものなんです。もちろん、事務所の社長には「こういう趣旨のイベントを自分でやりたいです」と事前にきちんと説明して、承諾を得た上での開催でしたけど、実際は最初から最後まで私が1人で進行していました。
ファンの皆さんは、もしかしたら「表向きは牧村が1人でやってるように見せて、会場の物陰には事務所の黒服(スタッフ)が何人も待機して監視してるんだろう」って思っていたかもしれませんけど(笑)、本当に受付のセッティングから、イベントの準備、調理、おもてなし、最後の撤収作業にいたるまで、正真正銘、私1人きりで回していたんです。
――なぜそこまで大変な労力を払ってまで、1人きりでのイベント開催にこだわったのでしょうか? 効率を考えれば、事務所に丸投げしてトークショーをやったほうが遥かに楽だったはずですが。
牧村:ただ単に「お金を稼ぐため」だけで考えていたら、絶対にこんな非効率でしんどいことはやらないですよね(笑)。
当時の状況を振り返ると、ある時期から私の仕事が、専属メインから徐々に単発の企画物がポツポツと入るようなペースに落ち着いてきた時期があったんです。そうすると、次の撮影までの間にスケジュールに空き時間が生まれるようになりました。その空いた時間を使って、「今まで自分がやってみたかったこと」に挑戦してみようと思ったのがきっかけです。他の女優さんたちも、ファン向けのトークイベントなどをよく開催されていましたけど、私が「牧村彩香」としてファンの皆さんの前に直接姿を現すような機会は、ほとんどありませんでした。
それに加えて、私自身の元々の性格として、「一人対多くのファン」として接するのではなく、目の前にいる「1人ひとりの人間」に対して、真正面から丁寧に向き合いたいという強い想いがあったんです。だからこそ、大人数のホールイベントではなく、あえて参加人数をごくわずかに限定した「少人数の食事会」というスタイルにこだわりました。
◆改めて“ファンとの距離感”の難しさに気がついた

牧村:もうね、一言で言うなら「とにかく冷やかしがものすごく多かった!」ということにつきます(苦笑)。応募の段階で、最初から来る気のないような嫌がらせや冷やかしの連絡ばかりが入ってきて。当然のように、当日になって連絡なしでバックれて来ない「無断キャンセル(ドタキャン)」なんていうのも、ごく当たり前の日常茶飯事でした。まあ、そういう悪質な人たちのことは途中で完全に割り切って、無視するようにしていましたけどね。
あと、イベントでは私が手料理を振る舞う形にしていたので、「食品」を扱う上で、衛生管理者の資格も取得したりで、とにかく大変でした。イベント当日の朝は、誰の手も借りずに早朝から1人でスーパーへ食材の買い出しに走り、会場に入ったら1人で調理を、店内の掃除をし……普通のイベント会社が組織でやるようなタスクを、全部1人の頭と体で行っていました。
――それはもう、人気セクシー女優のタレントイベントというよりは、完全に「小料理屋の若女将が1人で店を切り盛りしている」という状態に近いですね。
牧村:本当にその通りです(笑)。私個人としては、ファンの皆さんに本当に喜んでもらえる素晴らしいイベントを提供できているという自負がありましたし、やって良かったなと思っていました。ただ、他の女優さんでここまで頑なに1人きりで手作りの食事会をやってる人なんて、業界内に誰一人としていませんでしたから、周囲からは珍しがられましたね。
しかも、私がこの食事会イベントを本格的に始めた時期というのが、ちょうど「新型コロナウイルス」の感染拡大のタイミングと重なってしまったんです。世間がピリピリしている中で少人数の対面イベントをやるわけですから、開催の是非も含めて、心理的な負担も相当なものがありました。
そして何より、ファンの皆さんの気持ちと向き合う難しさに、激しく直面した時期でもありました。食事会に来てくださるファンの本音としては、やっぱり「牧村彩香と1対1で深く会話がしたい」「彼女を独占したい」という強い独占欲や承認欲求を持って参加されるわけです。低価格のイベントではない分、熱量も凄まじい。でも、イベントである以上、そこには他のファンの参加者さんも同じ空間に座っているわけじゃないですか。
――なるほど。自分だけのものにしたいけれど、横を見れば別のライバル(ファン)がいるという構図ですね。
牧村:はい。そうなると、中には自分の感情や独占欲を抑えきれなくなって、周囲の空気を読まない「変な行動」に走ってしまう熱狂的なファンの方が、どうしても一定数集まってしまうんです。歪んだ愛情というか、ご自身の勝手な「正義感」やマイルールを現場で私や周囲に押し付けてきたりして。他の参加者さんもいる中で、その人一人の我が儘や迷惑行為をするせいで、せっかくの食事会の進行がピタッと滞ってしまうようなトラブルが何度も起こりました。「本当に他のお客さんの迷惑になるから、そういう行動はやめてほしいな……」と、裏ではかなり頭を悩ませていましたね。

