「ブショネ」は、もう過去の話になりつつある
コルクの弱点といえば、TCA(2,4,6-トリクロロアニソール)による汚染、いわゆる「ブショネ」を思い浮かべる読者も多いだろう。ただ、この30年で業界は予防と矯正の両面にかなりの投資をしてきた。超臨界二酸化炭素による抽出、オートクレーブ処理、蒸気蒸留に加え、クロマトグラフィーや分光分析による1本ごとの個別検査まで導入されている。現在、影響を受けるボトルの割合は1%を下回るとされ、一部のグレードでは全数検査によってリスクをほぼ排除しているという。
過去30年間の業界研究開発投資は7億ユーロを超えるというから、天然素材でありながら、検査体制という意味ではかなり手厚い部類の素材になったと言えるかもしれない。

開ける音が、味の感じ方を変える——専門家たちの視点
興味深いのは、神経科学からのアプローチだ。ミラノのIULM大学が2022年に行ったニューロマーケティング調査によれば、コルク栓のワインは代替栓に比べて238%高い感情的活性化を引き起こし、支払意思額を18.5%押し上げたという。開栓音そのものが64%強い情動反応を生み、消費者はコルク栓のボトルを眺める時間も10%ほど長かったそうだ。この種の調査は業界寄りの解釈になりやすい点は差し引いて読む必要があるが、数字としては面白い。
フランスでは、世界最優秀ソムリエの称号を持つフィリップ・フォールブラック氏と、パスツール研究所の神経科学者ガブリエル・ルプゼ氏が「ニューロエノロジー(神経ワイン学)」という共同研究を進めているという。ソムリエナイフに感じるわずかな抵抗、指先に触れる樹皮の感触、そしてあの「ポン」という音。これらの感覚信号は、最初の一口が口に入るより前に期待という名のメカニズムを起動し、味の知覚そのものに影響を与えるというのが2人の主張だ。栓は単なる容器の付属品ではなく、テイスティング体験の起点である、という見立てである。


