子どもと若者が育てた、小さな緑のじゅうたん 公園はどう変わり始めたのか

子どもと若者が育てた、小さな緑のじゅうたん 公園はどう変わり始めたのか

緑は、人の心に何をもたらすのか

緑がもたらすものは、景観の美しさだけではない。WHOは都市の公園や緑地について、心理的なリラックスやストレスの軽減、人とのつながりや身体を動かす機会を生み出し、さらに暑さや騒音など都市生活の負担を和らげることで、心身の健康を支える可能性があるとしている。

東田公園を考えるうえで、興味深い研究もある。米国フィラデルフィアで、荒廃した空き地541カ所を対象に行われた無作為化比較試験だ。空き地を清掃したうえで芝生や樹木を植え、継続して管理する「緑化」を行った場所と、清掃だけを行った場所、何もしない場所の3つを比較した。

その結果、緑化した場所の近隣住民では、対照群と比較して「抑うつを感じる」という回答が41.5%減少した。貧困線以下の地域に限ると、その減少はさらに大きかった。一方、ゴミを取り除いて管理するだけの介入では、同じような精神面の改善は確認されなかった。

同じフィラデルフィアの別の無作為化比較試験では、荒廃した空き地を緑化・管理した周辺で、住民の安全感や屋外利用にも変化が確認され、貧困地域では一部の犯罪指標も減少した。

もちろん、「緑を植えれば犯罪がなくなる」「クラピアを増やせばゴミが捨てられなくなる」と単純化することはできない。しかし、こうした研究を東田公園の変化に重ねてみると、興味深い共通点が見えてくる。ゴミを取り除くだけではなく、植物を植え、誰かが継続して手入れすることで、「ここは放置されていない場所だ」と感じられる風景が生まれていることだ。

「捨てちまえ」と思わせない場所へ

すでにゴミが散乱している場所に、もう一つ空き缶を置くのは気が咎めない。「どうせ汚い」「誰も気にしていない」、そう思えば心理的なハードルは低くなるものだ。

まちびらき隊が中心となり、毎年、春にはチューリップ、夏にはひまわりを育てている公園入り口の花壇。写真/まちびらき隊

けれど、その場所に花の絵とともに「公園が好き」という文字がある。昨日までむき出しだった土に緑が広がっている。花が咲き、誰かが水をやっている。毎週日曜日には、若者たちが手入れをしにやって来る。そうなれば、そこはもう、「誰も気にしていない場所」ではない。

さらに、前述の研究の中に示された、緑化された環境が人の心身にもよい影響をもたらす可能性も注目すべき点だ。

緑の心地よさは、利用する人を選ばない

公園の緑化と聞けば、その先に子どもが遊び、家族がピクニックを楽しみ、地域の人が花を眺めるような、穏やかな景色を思い浮かべる人が多いだろう。けれど、東田公園を訪れる人はそれだけではない。

周囲の店で働く人もいる。酒を飲んだ帰りの人もいる。仕事の合間にたばこを吸いに来る人。何かがうまくいかず、ただ一息つきたい人もいるかもしれない。

そうした人たちは、「荒れた公園」を説明するための景色ではない。彼らもまた、この街に暮らし、働く一人の人間だ。そして、家でも職場でも店でもなく、お金を払わずにただ木陰に腰を下ろすことのできる公園を、むしろ強く必要としているかもしれない。少し疲れたとき、社会とのつながりからこぼれ落ちそうになったとき、足が向くのが公園という場所なのかもしれない。

公園は誰のためにあるのか

「公園は誰のためにあるのか」という問いは、東田公園だからこそ浮かび上がってくる。まちびらき隊がこれまでやってきたことは、そこで問題を起こす誰かを排除することではなかった。ゴミを拾い、子どもたちの言葉を掲げ、喫煙する人にもルールを守れる場所を用意し、そして荒れた地面を耕して緑を育てている。

彼らの目下の目標は、この緑のじゅうたんのエリアを広げ、公園を緑でいっぱいにすることだ。

「この公園を拠点に、街中へも緑を広げて、温暖化とか社会の課題を解決できたらいいなと思い描いています」と代表を務める学生の一人は話した。

ほんの数年前まで、「子どもは遊びに行ってはいけない」と言われていた東田公園。今、その一画には小さな緑のじゅうたんが広がり、日曜日になると子ども達が集まってくる。その緑のそばでは、子どもも、大人も、この街で働く人も、ただ通りかかった人も、同じ公園の利用者だ。

小さな緑のじゅうたんが広げようとしているものは、植物の葉だけではないのかもしれない。

<参考資料>

川崎市 健康福祉局保健医療政策部生活衛生課公開「営業許可施設一覧」をもとに編集部集計。同一名称・同一所在地の重複データを除外。

「川崎市の公園内における喫煙の取扱いについて」/川崎市 建設緑政局緑政部みどりの管理課

Urban green spaces and health/World Health Organization Regional Office for Europe, 2016

Effect of Greening Vacant Land on Mental Health of Community-Dwelling Adults: A Cluster Randomized Trial/Eugenia C. Southほか, JAMA Network Open, 2018

Citywide cluster randomized trial to restore blighted vacant land and its effects on violence, crime, and fear/Charles C. Branasほか, Proceedings of the National Academy of Sciences, 2018

 

取材協力/

NPO法人姿勢教育の孝心会 まちびらき隊

株式会社グリーンプロデュース

Credit 文&写真(クレジット記載以外) / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。 2026年10月5日発売の書籍第3弾『小さな空間を生かす立体ガーデニング 玄関から始める花のある暮らし』(発行/KADOKAWA)予約受付中!

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