●カミソリは刑務官の許可を得て借りる
床を片付け終えると、受刑者は席を離れ、近くで見守っていた刑務官のもとへ向かった。灰色の細長い物体を受け取り、戻ってくる。
キャップを外すと、どうやらカミソリだった。

刑務官によると、刃物であるカミソリは安全管理のため、使用のたびに職員の許可を得て貸し出される仕組みだという。

刑務所の理容室を利用する際、外部の人が最も心配するのが、この瞬間かもしれない。
受刑者が、切れ味の鋭い刃物を首元や耳元に当てる、いわゆるシェービングの時間だ。
今回注文したのはカットのみだったが、襟足ともみあげ部分のシェービングはサービスで付いてくるようだ。
もっとも、外部客への接客を許されている受刑者は、刑務所側が信頼できると判断した人物に限られる。そのため筆者自身、不安を感じることはまったくなかった。

●シャンプーやマッサージも付く
カットが終わると、次はシャンプーだ。
ちょうどいい力加減で頭全体を洗ってくれる。これまで利用してきた理容室や美容室と比べても遜色ない心地よさだ。

洗い終えると、タオルで軽く水を拭き取り、続いてマッサージが始まる。

指先で頭をつかむように揉みほぐし、両手で軽くチョップするような動作へ。首筋をほぐし、最後は肩揉みまで。

「お疲れさまでした」
その一言で、はっと我に返った。
「このままセットをおこなっていきます。最後に整髪料をお付けしてよろしいですか?」
言われるままにお願いすると、ドライヤーで髪を乾かしながら形を整えていく。

ワックスを手のひらに広げ、髪全体になじませる。頭頂部に立体感を出し、前髪の分け目を整える。

「お待たせしました。最終確認をお願いします」
メガネをかけて鏡を見ると、なかなかの仕上がりだった。

●カット、シャンプー、マッサージ込みで650円
この時点で、入店から約1時間が経っていた。
取材前、刑務所の担当者からは「受刑者なので、カットには時間がかかります」と聞いていたが、体感としてはあっという間だった。
髪を切る前と切った後を比較した写真がこれだ。

気になる料金は、シャンプー、カット、マッサージ、襟足のシェービング込みで650円(税込み)。
現在、もう一つのメニューに顔そりのシェービング付きカットもあるが、こちらも975円と破格だ(なお、所要時間は1.5時間の見込み)。
もちろん、この価格は受刑者の刑務作業として位置付けられているからこそ可能になっている。一般の理容室が同じ料金で営業することはまず不可能だろう。

●知る人ぞ知る「塀の中の理容室」
今回カットを担当してくれた受刑者は、「ここに来る前は、自分が知っている人以外に興味がなかった」と振り返る。
だが、客から「ありがとう」と言われるときにやりがいを感じるという。
「自分を認められるというか、自分がしたことによって喜んでもらったり感謝されるっていうことはやっぱすごくいい気分になります」

川越少年刑務所の看守部長も、彼が理容師の資格を取ってから変化を感じているという。
「若いうちに施設に入っているので、社会経験が浅く、言葉遣いが未熟なところもあって、以前は人に流されやすいところがありました。
1、2年かけて自分の考え方を改め、資格を取って責任感を持って仕事をするようになり、どんどん変わってきました。
今はダメなものはダメだとルールを守れるようになってきている。すごく向上心が高く、彼なりの夢を持っています」
地域住民の中には、20年以上も通い続けている常連もいるという。知る人ぞ知る「塀の中の床屋」だ。
立ち入った会話はできない。それでも、事件を起こした受刑者もまた「普通の人」なのだと実感できる場所なのかもしれない。

●川越少年刑務所の理容室
・住所:埼玉県川越市南大塚6-40-1
・受付時間:平日の午前8時〜9時半、午後1時〜2時半
・備考:予約不可。不定休のため、利用希望者は事前に川越少年刑務所(電話:049-242-0226)に問い合わせを。

