特発性拡張型心筋症の治療法
特発性拡張型心筋症は心不全、不整脈、心臓の拡大に伴う弁膜症などを合併することがあるため、それに対する治療がメインとなります。
薬物治療
治療は心不全の治療と同様に行われます。
主に以下のような薬剤が使用されます。
①利尿剤:むくみをとり、体に余分な水分が貯まらないようにする
②ACE阻害薬・ARB・ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬:神経体液性因子(交感神経やRAAS)を抑え、心臓の負担を軽減し、予後を改善する
③血管拡張薬:血管抵抗を下げ、心臓にかかる負担を軽くする
④強心剤・昇圧剤:心臓の収縮力を向上させる、血圧をあげる
⑤心拍数調整薬:心拍数を適正に保つ
心不全の程度により外来または入院で治療が行われます。
特発性拡張型心筋症の治療は、薬物療法含め、ほとんどが循環器内科で行われます。
ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬
ARB:アンジオテンシンII受容体拮抗薬
ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬
MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
RAAS:レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
僧帽弁形成術・置換術
左心室が拡大すると、それに伴い僧帽弁も拡大し、僧帽弁閉鎖不全症を引き起こします。
以前は左室形成術(拡大した左心室を切って、縫って縮める手術)と、僧帽弁の形を整えたり(僧帽弁形成術)、新しい弁に交換したり(僧帽弁置換術)する手術が行われることがありました。しかし、左室形成術は予後改善効果が乏しいとされ、現在では積極的には行われていません。
最近では体への負担が少ない、MitraClip(マイトラクリップ)を使用し、僧帽弁の逆流を減らす治療が行われています。
MitraClip:太ももの付け根からカテーテルという細い管を挿入し、僧帽弁の逆流している部分をクリップで挟んで閉じ、血液の逆流を減らす治療法。
心臓再同期療法
左心室が拡大し、収縮力が低下すると、左心室と右心室の収縮に時間差が生じることがあります。両方の心室の収縮のタイミングが合わないと、心室全体の収縮力が低下します。
心臓再同期療法では、
①左心室と右心室にリード線を挿入
②両心室からタイミングを合わせてペーシング(電気刺激で筋肉を収縮させる)
③左右心室の時間的なずれを修正
④それにより心収縮能を向上
を目的としています。
ペースメーカを植え込む方法とほとんど同様の手術であり、入院は1週間程度必要です。
植え込み型左心室補助人工心臓・心臓移植
心不全が最重症(ステージD)であり、薬物治療や現存する心不全治療を行っても繰り返し入院する、若年(65歳未満が目安)の人に心臓移植が検討されます。
また、心臓移植を待機する間に、心不全や亡くなることを予防するため、植え込み型左心室補助人工心臓(植え込み型LVAD)が使用されます。
心臓移植は、日本において国立研究開発法人国立循環器病研究センターを含む限られた施設(2025年8月時点で12施設)で実施しています。
カテーテルアブレーション、植え込み型除細動器
拡張型心筋症では、心房細動や心室頻拍など不整脈も合併することがあります。
カテーテルアブレーションとは、不整脈の原因となっている異常な電気信号の発生源や伝導路を、カテーテルを用いて焼灼(または冷却)し、根治を目指す治療法です。
しかし、心室頻拍では突然死を起こすリスクがあるため、カテーテルアブレーションを行った後でも、植え込み型除細動器が使用されることがあります。
植え込み型除細動器とは、ペースメーカに似た形状の機器であり、心臓の電気信号を常に監視して、心室頻拍などの致死的な不整脈が発生したときに電気ショックを自動で行ってくれる機能を持っています。
特発性拡張型心筋症の予防法
特発性拡張型心筋症の予防は、発症そのものを予防する確立された方法はありませんが、病気の進行や心不全の悪化を防ぐための対策を行うことが重要です。
食事療法
塩分を多くとりすぎると、むくみやすくなり、体に水分をため込む方向に働きます。そのため、加工食品を避けるなど、減塩に気を付けるとよいでしょう。また糖尿病や肥満がある場合には、摂取カロリーについてもコントロールが必要となってきます。
アルコール
適度なアルコール(純アルコールで20g程度)にとどめておくのが一般的な目安です。
ビールであれば500ml、日本酒であれば1合までが目安です。ただし、心不全の程度によってはそれ以下のほうが望ましいこともあり、禁酒が必要なこともあります。
禁煙
タバコは、冠動脈がスパズム(一過性に収縮したり、けいれんしたりすること)を起こすとされており、心臓への負担を増やす一因となります。
そのため、拡張型心筋症の人には禁煙が勧められます。
運動
有酸素運動を中心とした運動トレーニングは、心不全の悪化を防ぐために大切です。
心臓リハビリテーションが施行できる施設で、現在の心肺機能にあった運動処方をしてもらいましょう。
「特発性拡張型心筋症」についてよくある質問
ここまで特発性拡張型心筋症などを紹介しました。ここでは「特発性拡張型心筋症」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
特発性拡張型心筋症の予後は悪いのでしょうか?
大沼 善正(医師)
拡張型心筋症の予後は、心機能低下の程度や、心筋の線維化(本来は柔軟な心筋が硬くなること)の範囲、致死的な不整脈の有無など、複数の要素によって左右されます。
適切な薬物治療含め、心臓再同期療法、植え込み型左心室補助人工心臓や心臓移植、また食事療法や運動療法など組み合わせることで、予後の改善が期待できます。
特発性拡張型心筋症は完治するのでしょうか?
大沼 善正(医師)
特発性拡張型心筋症は慢性的な疾患であり、遺伝的な背景を含む複数の要因が関与しているため、完治させるということは難しいと考えられます。
しかし、治療を継続していくことで心不全が安定したり、心機能が改善したりするということもあります。
特発性拡張型心筋症の禁忌事項について教えてください。
大沼 善正(医師)
塩分や水分、アルコールの過剰摂取は心不全を悪化させる可能性があります。
また心不全がよくなった場合でも、薬を自己判断で中断することは心不全悪化の原因となるため、避けるべきであると考えられます。
まとめ
特発性拡張型心筋症は薬物療法などの治療が進んでおり、適切な治療で予後の改善が期待できます。
ただし、症状がよくなった場合でも、治療を中断すると悪化することもあります。
そのため特発性拡張型心筋症と診断された場合には、継続的な治療が必要です。
また、ご家族の中に特発性拡張型心筋症と診断された方がいる場合や、気になる症状がある場合には、早めに医療機関を受診しましょう。
「特発性拡張型心筋症」に関連する病気
「特発性拡張型心筋症」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
循環器系の病気
循環器系
高血圧症
糖尿病脂質異常症心房細動
心室頻拍
弁膜症心筋症
特発性拡張型心筋症に伴う心不全や不整脈は、適切な治療介入によって改善すると言われます。健診で異常を指摘された場合や、症状がある場合には、循環器内科で相談することをお勧めします。
「特発性拡張型心筋症」に関連する症状
「特発性拡張型心筋症」に関連する症状は7個ほどあります。
各症状の詳細についてはリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
呼吸困難
むくみ
疲れやすさ
動悸めまい立ち眩み
失神
特発性拡張型心筋症は無症状で経過することの多い病気ですが、これらのような症状がある場合には、循環器内科で早めに検査を受けて必要に応じた治療を行うことが推奨されます。
参考文献
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療
日本循環器学会心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)
難病情報センター特発性拡張型心筋症(指定難病57)
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