プロ野球界を揺るがした読売巨人軍・阿部慎之助監督の逮捕と辞任劇。この歴史的な電撃辞任が、奇しくもサッカー界でくすぶっていた大きな火種に強烈な油を注ぐ事態となっている。
サッカーW杯日本代表に選出されたMF佐野海舟(マインツ)の過去の不同意性交容疑と、それを擁護した地元・米子市長の発言をめぐる騒動だ。起訴前の段階で「巨人軍監督」という立場から潔く退いた阿部氏の決断と、逮捕歴がありながらも「日の丸を背負う代表」に選出された佐野の対比が、SNS上で「スポーツ界のけじめのあり方」として激しい議論を呼んでおり、Xでは「#佐野海舟を日本代表にするな」というハッシュタグが拡散される事態にまで発展している。
「逮捕=解雇」が基本の野球界…阿部監督が示した「即日辞任」というけじめ
25日夜、阿部監督が東京都内の自宅で長女への暴行容疑で警視庁に現行犯逮捕されたというニュースは日本中に衝撃を与えた。翌26日未明に釈放されたものの、事態は急転直下で動く。同日午前には山口寿一オーナーと面会し、自ら辞任を申し入れて受理された。会見では大粒の涙を流しながら「伝統ある巨人軍の監督の名を汚してしまった」と深く謝罪した。
まだ起訴もされておらず任意での捜査が続く段階であり、家庭内トラブルという側面も強い事案だった。しかし、プロ野球界では今回の阿部監督に限らず、直近でも「ゾンビたばこ」の使用で逮捕・解雇された広島・羽月隆太郎元選手のように、「逮捕=解雇(契約解除)」という厳しい流れが定着している。起訴・不起訴を待たず、逮捕された時点で球団が社会的責任を重く見て処分を下すケースがほとんどだ。
この野球界の迅速かつ厳格な対応が、現在ネット上で、サッカーW杯日本代表に選ばれた佐野海舟の処遇との強烈な比較対象として急浮上している。SNSでは「JFAの対応とは真逆」「これがスポーツマンシップのけじめだ」といった声が殺到した。
「逮捕=有罪」ではない…法治国家におけるサッカー界の対応は間違いか?
批判の矛先が向かっている佐野は、2024年7月14日の夜、不同意性交容疑で警視庁に逮捕された。知人の男2人と共謀し、都内のホテルで30代女性に性的暴行を加えた疑いだ。その後、16日に送検されて勾留が決定。10日間の勾留に加えて4日間の延長となり、7月29日に処分保留のまま釈放されるまで、逮捕から計16日間(身柄拘束の日から15日間)にわたって留置施設で身柄を拘束された。その後、示談が成立したとみられ不起訴処分となっている。
特筆すべきは、佐野がちょうどJ1鹿島アントラーズからドイツのマインツへ移籍するタイミングでこの事件を起こしたことだ。当時、鹿島側にはすでに出場停止などの処分を下す権限がない時期であった。今はやりの大ヒット配信ドラマ「九条の大罪」のフレーズを借りれば、まさに「20日でパイ(釈放)」(実際の拘束は16日間だったが)となり、佐野は事実上クラブからのペナルティーを一切受けることなく、そのままマインツに合流。何事もなかったかのようにドイツへ移籍し、ステップアップを果たしたのである。
サッカー界には、古くから「シャバにいれば(逮捕・拘留されていなければ)プレーは可能」という独特の空気が少なからず存在する。過去を見ても、今回のW杯メンバーから外れたものの、長らく日本代表のレギュラーとして活躍していたある選手は、Jクラブ所属時代に赤切符相当の「無免許運転」で摘発されながらも、クラブからの処分はわずか1試合の出場停止にとどまり、その後も代表の主力として重用され続けた。
これだけを見るとサッカー界のコンプライアンス意識の低さが際立つように思えるが、冷静に法的観点から見れば、サッカー界の対応が「決して間違いとは言えない」のもまた事実である。
日本の司法制度において、「逮捕=有罪」ではない。起訴され、裁判で有罪判決が確定するまでは「推定無罪」として扱われるのが大原則だ。プロ野球界のように逮捕された時点で即座に解雇等の重い処分を下すことは、世間の感情を宥める効果はあるものの、仮に後から無実や不起訴が証明された場合、選手のキャリアを不当に奪うリスクを孕んでいる。
その点において、司法の最終的な判断(不起訴・示談成立)を待ち、法的な縛りがなくなった段階で「代表入りに支障はない」と判断したJFAやサッカー界のスタンスは、感情論を排すれば法治国家として真っ当で、理にかなった対応とも言えるのだ。

