綺麗事では済まない現実…「4人しかいないボランチ」という台所事情
もちろん、サッカー界でも指揮官のスタンス次第では、私生活のトラブルを理由にどれだけ実力があっても代表に呼ばれないケースはある。ジーコ監督時代の「キャバクラ7」事件(無断外出・豪遊による代表追放)などがその典型だ。また、仮に同じぐらいの実力の選手がいれば、わざわざ問題歴のある選手を選ぶ監督はいないのが自然だ。
それでも今回佐野が選ばれた最大の理由は、彼が海外の厳しい環境で結果を残し続け、事実上「替えの効かない戦力」になってしまったというシビアな現実がある。
現在、日本代表のメンバーにおいてボランチは4人しかおらず、しかもそのうちの1人はけが明けの遠藤航であるという極めて苦しい台所事情がある。過酷な中盤の底において、強靭なボール奪取能力と推進力を兼ね備えた佐野は、容易に代替可能なレベルを凌駕してしまったのだ。ピッチ上での圧倒的なパフォーマンスとチームの事情が、事実上、批判の声を押し切って代表復帰への扉をこじ開けた形となっている。
実力至上主義とモラルの狭間で
推定無罪の原則がありながら、起訴前であっても「巨人軍の監督」という公的立場から即座に身を引いた阿部氏。 不起訴(示談)とはいえ重大な性加害疑惑の過去を持ち、計16日間の留置施設での拘束を経ながらも、法的・手続き的な正当性と替えの効かない実力によって日の丸を背負い続ける佐野。
まさに「留置所からW杯のピッチへ」という異例の軌跡をたどることになった佐野だが、国民的注目度が桁違いに高い「W杯本大会」のメンバーに選出されたことで、改めてその過去に強烈な焦点が当たってしまった。そこに阿部監督の即日辞任という「対極の振る舞い」がリアルタイムで重なったことで、佐野に対する逆風はかつてないほど強まっている。
法治国家としての「推定無罪」の理、被害者感情、チームの台所事情。世界最大のスポーツイベントを前に、日本代表選手に求められる「品格」と、それを巡る実力至上主義とモラルのせめぎ合いが、今改めて深く問われている。

