●弁護士の介入で、ようやく動き出した状況
店の住所はすぐに特定され、「明日行く」といった脅迫も届いた。外出もままならず、殺害予告を受ける中で、防犯カメラを設置し、自宅で常にモニターを確認する生活を余儀なくされた。
精神的に追い詰められる中で、転機となったのが弁護士の存在だった。
現在も代理人をつとめる小沢一仁弁護士が受任すると、状況は大きく動き出す。発信者情報の開示請求や損害賠償請求訴訟、メディア取材の窓口対応、会見への同席、殺害予告への刑事告発──。
それ以前にも、「話題の人」になっていたとも子さんに対して、「無料で対応する」と申し出た弁護士もいたが、次第に連絡が途絶えていったという。
●見えてきた現実、中傷は「ネットの総意」ではなかった
専門家に対応を任せ、生活が少しずつ落ち着きを取り戻すにつれ、見え方も変わっていった。
開示請求は約30人に対しておこなった。相手は若者から50代くらいの男性が多かったが、大学の准教授という立場の人も含まれていた。多くは謝罪に至った。
そして何より、身近な知り合いが含まれていなかったことに安堵した。
時間が経つにつれて、「助けたかったけど、自分もなにか言われるのが怖くて声をかけられなかった」と打ち明ける人も現れた。
「誹謗中傷は、どうしてもポジティブな声よりも目立ちます。落ち着いたからこそ理解できたわけですが、中傷はネットの代表者の声ではありませんでした。今では『こんな小さい声を理由に苦しむ必要ないな』と感じています。
渦中にいるときはどうしても気づけませんが、苦しんでいる人には、SNSやネットの“過激で悪い声を増幅する”仕組みに気づいてほしいです」(とも子さん)
●風化させたくない…顔を出した理由

美咲ちゃんは事件に巻き込まれた可能性があると信じ、生存を願い続けてきた。「犯人がいるなら身代金を要求してほしい」と思ったことも一度や二度ではない。
数年後、遺骨が見つかった。訃報の後は、「子どもが戻ってきてよかったね」「ご冥福を祈ります」という言葉さえ受け入れられず、SNSを見ることができなかった。
一方で、行方不明者の家族が顔出しでメディアに出ることは「勧められない」とも語る。実際、表に出たことで受けた中傷は少なくなかった。長い間、ニュースやSNSを見ることすらできない状態が続いた。
長女には、大切な家族の行方不明という出来事にとらわれずに生きてほしいと考えている。
とも子さんが個人で表に出続けるのは、今でも情報が欲しいからだ。
「北朝鮮拉致被害者の横田めぐみさんのお母さん、横田早紀江さんが今もメディアに出続けているのは、風化させたくないからではないかと思うことがあります。私もそうなので。小倉美咲、小倉とも子という名前が消えなければ、いつか美咲につながる情報が得られるのではないかと思います」(とも子さん)
●京都の事件、そして「素人探偵」へ
京都府南丹市で起きた小学生行方不明事件では、養父が死体遺棄の疑いで逮捕され、その後は殺人と死体遺棄の罪で起訴された。
とも子さんも関心を寄せていたが、報道が過熱した時期はテレビを見ないようにしていたという。
「テレビは見たくない情報やコメンテーターの憶測が入ってくるので、ネット記事から情報を得ていました」
SNSやYouTubeにあふれる「素人探偵」の見解も、意識的に見ないようにした。
「行方不明というテーマは拡散されやすく、承認欲求のために投稿する人もいるのではないかと思います。私たちに粘着してきた人たちにも、同じ印象がありました。
事実が確定しない段階で語るコメンテーターも困りますが、YouTubeやSNSはさらに深刻です。個人の見解をあたかも“みんなの意見”のように話すので。高齢の方などは完全にデマの情報なのに『YouTubeでやってたから!』と信じてしまう人もいました。
なにより、身近に疑わしい人物がいれば、警察がきちんと捜査します。素人探偵は必要ありません。そういう認識が広がってほしいと思います」

