●ハードル2 「反抗できなくさせる程度」だったか
次のハードルは、暴行・脅迫の強さです。
強盗罪が成立するためには、被害者が反抗できなくなるほどの強い暴行・脅迫が必要です。これに達しない場合は、より軽い恐喝罪(刑法249条、10年以下の拘禁刑)にとどまります。
本件のPayPay送金の場合、被害者が自分でスマートフォンを操作して送ったとすると、仮に送金させるための暴行・脅迫があったと認定できたとしても、それが「反抗できない」レベルの暴行・脅迫といえるかが問題となります。
裁判例では、激しい暴行・脅迫の後にいったん被害者を解放し、その後で借金の肩代わりを求めた事案で、裁判所は、被害者が自分から支払う「能動的な行為」を求められていたことなどから、強盗にいう反抗ができなくなる程度には達していないとして、強盗致傷ではなく恐喝未遂と傷害にとどまると判断しました。(福岡高裁平成29年(2017年)9月19日判決)
もちろん、「被害者が自分で送金したから恐喝止まり」というような形式的な問題ではなく、あくまで、その送金の時点で、被害者が反抗できないほど追い詰められていたかどうか、という中身が問われる点には注意が必要です。
なお、「結局、命を奪うほどの暴行を加えているのだから、反抗を抑圧していたに決まっている」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、先に述べたとおり、強盗かどうかを判断する際に見るのは、あくまで「財産を奪うため」に行われた暴行・脅迫です。仮に送金が終わった後にエスカレートし、最終的に被害者の死を招いた場合、エスカレート後の暴行・脅迫は、財産奪取のためのものではありません。
したがって、いくら最終的な暴行が激しかったとしても、それを根拠に「送金時点で反抗を抑圧していた」とはいえないのです。問われるのは、あくまで送金させた時点での暴行・脅迫が、反抗できなくさせるレベルだったか、という点です。
●強盗殺人罪の場合は「殺意」の立証も必要
「強盗殺人罪」の責任を問うには、さらに「殺意」を証明しなければなりません。(強盗致死罪の場合は不要です)
本件では、最終的に殺人罪の成立が認められていますが、それは「強盗殺人罪」としての「殺意」ではありません。
つまり、財産を奪おうとしている時点、本件であればPayPay送金時の殺意を立証しなければなりません。
先にあげたような時系列だったとすると、その立証は非常に困難でしょう。

