●「判決の意義は大きい」
──今回の仙台高裁判決の判決をどう評価しますか。
法の不備によって救済が図られていなかった無期雇用者同士の待遇格差について、不法行為の成立を認めた点は、大きな意義があります。
企業は、無期雇用者同士であっても合理性のない待遇格差を放置することは許されないことになり、実務への影響も極めて大きいでしょう。
ただ、公序が成立した時期を2020年4月とした点については、やや遅すぎる印象があります。
●「立法されたから公序になった、ではない」
──高裁の線引きには問題があるということでしょうか。
2000年代以降、雇用形態による格差問題は社会問題となり、2007年にはパートタイム労働法が全面的に改正されました。
ところが改正法は実効性に乏しく、待遇格差は是正されませんでした。
このような問題意識を受け、2007年12月には労働契約法3条2項が確立し、2012年8月の労働契約法改正時には無期・有期契約労働者間の労働条件につき不合理な相違を禁止する規定が新設されました。
当時、無期・有期契約労働者間の格差がとりわけ顕著だったため、立法ではその点の手当にとどまったわけですが、一連の立法の底流にあるのは、雇用形態にかかわらない同一労働同一賃金の理念です。
社会の中でこの理念が結実したのが2020年4月1日から施行されたパートタイム有期法でした。
しかしそれ以前から、すでに社会のなかで公序たる理念として共有されていたからこそ立法化が実現していたのであって、「立法化が実現したから公序になった」というのは、論理の順番が逆なのではないでしょうか。
●企業にも格差の見直しが求められる
──今後はどのような対応が求められるのでしょうか。
無期雇用者どうしの待遇の格差、特に無期転換社員と通常の正社員間の格差については、立法化は見送られたものの、無期転換者と正社員との待遇格差は、政府も課題として認識しています。
多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書(2022年3月)では、「有期労働契約の時点で通常の労働者との均衡が図られるべき」「フルタイムの無期転換者と他の無期契約労働者との待遇の均衡は、…労働契約法3条2項を踏まえた均衡の考慮は無期転換者についても求められるものであり、その点の周知を図ることが適当である」と述べられていました。
今年10月から施行される同一労働同一賃金ガイドラインでも、労働契約法3条2項が引用された上で、無期転換後の待遇について正社員との均衡を事前に点検し、不合理な格差があれば「確実に解消することが求められる」と、さらに踏み込んだ是正を求めています。
今回の判決は、そうした流れを後押しするものです。企業には、無期雇用者の待遇に合理性があるといえるか、改めて点検することが求められるでしょう。
●原告女性「今後の議論につなげてほしい」
裁判を終えた女性は、次のようにコメントした。
「裁判の中では、事実とは異なる内容が取り入れられたり、証拠のない主張が事実として認定されてしまった部分もあり、悔しさや疑問が残っています」
一方で、同じような立場にある労働者や、今後の議論や制度改善のため、判決が生かされてほしいと期待を寄せた。
(※)当時の厚労副大臣の答弁
「無期労働に転換された労働者の労働条件が正社員と比べて低いままではなく、正社員の労働条件との均衡を考慮して、有期労働契約時の労働条件よりも引き上げられる、このようにしていくべきと考えますけれども、いかがでしょうか。」との質問に対し、「今回の改正は、有期労働契約の雇用が不安定であって、雇い止めを恐れて年休取得等の権利を十分に行使することができないといった課題を解消することがまずは重要であるという視点に立ちまして、無期転換によって、雇用不安をなくし、労働者としての権利行使も容易にして、安心して働き続けることができるようにするためのものであります。こうした無期転換によって、使用者との交渉力が向上することで継続的な能力形成も容易となりますし、また、処遇の改善や正社員に向けたステップアップにつながるものでありますので、無期転換ルールは正社員化推進の基盤になるというふうに考えております。」(第180回国会 衆議院 厚生労働委員会 第15号 平成24年7月25日)
【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」「就活前に知っておきたいサクッとわかる労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/

