●なぜ「懲役5年」だったのか
殺人罪の法定刑は、死刑または無期、もしくは5年以上の有期刑だ。
判決は心神耗弱を認めず、法律上かならず刑を軽くする減軽規定は適用しなかった。また、裁判所の裁量で刑を軽くする酌量減軽(刑法66条)もおこなわず、有期刑の下限である懲役5年を選択したとみられる。
裁判所は、人命が失われた結果は重大だとした一方、犯行については「使い慣れた包丁をとっさに手に取ったもの」「とっさの殺意による計画性のない犯行であり、突き刺した行為も1回だけ」と指摘。「特筆して悪質と評価すべきではない」と判断した。
さらに、30年以上にわたり、Aさんの浪費や借金、暴力、金の無心に耐えながら家族を支え、介護まで担った経緯について「酌むべき点は大きい」とした。
●「オヤジ殺そうかな」「80歳まで生きたらいいな」の間で
裁判所は、女性が本心からAさんの死を望んでいたわけではないことにも触れている。
「死んだらええ」「オヤジ殺そうかな」と口にする一方、事件直前には、Aさんについて「80歳まで生きたらいいな」と話していたことも認定した。
また、犯行後に自ら119番へ通報し、自分が刺したと正直に伝えたうえで「はよ来て」と告げていた。判決は、救命を願う気持ちもうかがえると受け止めている。
女性には前科前歴はなく、一周忌法要を長男に頼むなど後悔もうかがえる。
遺族でもある長男は刑の軽減を望み、社会復帰後も一緒に暮らす意思を示している。再犯のおそれもない──。
こうした事情を踏まえ、辛島裁判長は「執行猶予付き判決が相当なほど非難の程度が小さいとまではいえないが、動機・経緯に酌むべき点が大きいことなどからすると、検察官の求刑も重すぎる」と結んだ。

