日本の医療は国民皆保険と、医療機関を自由に選べるフリーアクセスを特徴とし、薬の処方も医師の裁量に委ねられる部分が大きい仕組みです。その結果、同じ効き目の薬でも地域ごとに数十種類が使われるなど、薬の使い方にばらつきがある状況が続いてきました。こうした中で、地域ごとに薬の使い方を見直す動きが全国に広がろうとしています。“薬の標準化”について研究する日本フォーミュラリ学会は、「『地域フォーミュラリ』の新展開〜最適な薬物治療を、すべての患者さんへ〜」をテーマに、第5回学術総会を2026年8月8日に札幌市医師会館で開催します。大会長を務める成田吉明先生(医療法人渓仁会理事長)に、フォーミュラリとは何か、そして私たちの暮らしとどう関わるのかなどについてお聞きしました。
「フォーミュラリ」とは何か
フォーミュラリとは、科学的な根拠(エビデンス)に基づき、有効性・安全性・経済性の観点から総合的に推奨される薬の一覧と、その使い方の指針です。標準的な薬物治療を地域や病院で進めるための、いわば「推奨薬リスト」にあたります。
成田先生はまず、日本の現状を説明します。日本は処方の自由度が高く、医師の個性が処方に反映されやすくなっています。例えば血圧の薬一つとっても、地域によっては数十種類の中から選べる状況だといいます。選択肢が多いことは一見よさそうに見えます。しかし医療機関は多くの在庫を抱えなければならず、効率の悪さにつながると指摘します。
入退院で薬が変わる―身近な「ムダ」と医療安全
高齢になり入退院を繰り返すようになると、問題が見えやすくなります。大病院では治療がある程度標準化され、絞り込まれた薬から処方されます。ところが、急性期の治療が終わるなどして地域のかかりつけ医に戻ると、また別の薬に変わることがあります。「これが繰り返されるうちに、使われない薬のロスが生まれてしまう」と成田先生は話します。
開業医も病院の勤務医も、同じような薬の中から選ぶようになれば、処方は自然と集約され、ムダが省かれます。標準化が進めば、患者さんが複数の医療機関にかかったときの処方の食い違いや重複も減らしやすくなり、薬の飲み合わせによるリスクを避けるうえでも役立つと考えられます。医療安全の面での利点が期待できるわけです。フォーミュラリが安全性と有効性を前提に組み立てられている点も、成田先生が強調する要点です。

