『四季-夏』(アルフォンス・ミュシャ), Public domain.
『夏の夕べ、イタリア風景』(ヴェルネ)
『夏の夕べ、イタリア風景』(ヴェルネ), Public domain.
絵の右側には大きな岩や木々がそびえ、その中央には穏やかに流れる川が広がります。その先にこじんまりと立っているのが石造りの橋です。さらに遠くには夕日を浴びて明るく輝く町並みが見え、手前の暗い岸辺との対比によって、夕暮れの光がいっそう印象的に感じられます。
描かれている町は実在する特定の場所ではなく、複数の景色を組み合わせて生み出した空想上の風景と考えられています。実際の景色と想像を織り交ぜた都市風景は、ヴェルネ作品ならではの特徴です。
『夏の夕べ、イタリア風景』の空は黄金色から淡い青色へとゆるやかに変化し、光が水面や大地をやさしく包み込んでいます。劇的な出来事が描かれているわけではありませんが、夏の一日が静かに終わる空気が伝わってきます。
実は本作には対作品があったとされ、そのタイトルは『朝、岩場の眺め』です。現在は所在不明となっているため見ることはできませんが、朝と夕方、それぞれ異なる時間帯の光を描き分けることで、一日の移ろいを表現しようとしたのかもしれません。
よくある穏やかな夏の夕暮れだけでなく、光が生み出す絵画全体の表情にも注目したい一枚です。
『紫陽花双鶏図』(伊藤若冲)
江戸時代を代表する絵師・伊藤若冲が1759年に制作した『紫陽花双鶏図』は、代表作「動植綵絵」全30作のうちの1作です。若冲は、緻密な観察にもとづく写実的な描写から大胆な水墨画まで幅広い表現を得意とした画家で、生きものたちの力強い生命感を鮮やかな色彩で描きました。
『紫陽花双鶏図』(伊藤若冲), Public domain.
画面いっぱいに咲き誇るアジサイの中には、若冲の代名詞ともいえる2羽のニワトリが堂々と描かれています。鮮やかな青いアジサイに囲まれながらも、雄鶏と雌鶏は花に負けない存在感です。
雄鶏は胸を張って勇ましく立ち、その姿は雌鶏へ向けた求愛行動とも考えられています。一方でそっと寄り添う雌鶏との組み合わせは、仲睦まじい夫婦のようにも見えます。
よく見ると、花はアジサイだけではありません。下側にはバラやツツジも添えられ、色彩豊かな草花がニワトリたちを包み込むように描かれています。
特に、アジサイの深い青と雄鶏の真っ赤なトサカの対比は目を引き、画面全体に華やかな夏の空気を感じさせます。細部まで描き込まれた植物や羽毛の表現からは、若冲が自然の美しさと生命力を大切に描いていたことが伝わります。
