「冷たい石の中には入れられん」17年たっても納骨はしていない
仏壇の横には、剣太さんの等身大パネルが置かれている。「もう二度と、剣太が立ってる姿は見られんから。写真はあるけど、立ってる姿は見れんから。だから、あれは絶対にあそこに置いてる」
遺影に触れようとしても、指先に返ってくるのはガラスの冷たさだけだ。撫でても、叩いても、「カツン、カツン」という音がするだけ。
そして、17年が経ったいまも、剣太さんの遺骨は納骨していない。
「冷たい石の中には、入れられん」
夏は暑いし、冬は寒い。だから、まだそばで一緒にいたい。子どもを亡くした親には、そういう人が少なくないのだという。
家族はみんな、剣太さんの遺骨を分けて、ペンダントにして身につけている。いつまでも一緒にそばにいたいという想いからだ。
ヒグラシの声に、今も息子の帰りを思う
剣太さんは、生前バイクによく乗っていた。夕方になると家のすぐそばの角を曲がって、勢いよく帰ってきた。その音が、いまも耳に残っているという。亡くなったあとも、奈美さんは玄関先に椅子を出して座り、その角をじっと見つめてしまう時期があった。剣太さんがバイクで帰ってくるのを待っていたのだ。
頭では、彼がもう帰ってこないとわかっている。それでも、すぐ横に停めたままのバイクに目がいってしまう。
「そのとき、ヒグラシが鳴いてたんよ」
だから今でもヒグラシの声を聞くと、あの薄暗い夕暮れを思い出してしまう。あの鳴き声は、あまり好きじゃない。ヒグラシの鳴く季節になると、やっぱりあの角からバイクで帰ってくるのではないかと、思ってしまうのだという。

