人のトリップは、キノコと虫の戦いの“副産物”かもしれない

今回の研究により、「シロシビンを含むマジックマッシュルームは、少なくとも一部のハエにとって、生きにくく育ちにくい場所を作る力を持っている可能性が高い」ということが示されました。
幼虫の生存率が大きく下がり、成虫になっても体が小さくゆがみ、動きが鈍くフラフラになるという事実は、防御化合物(食べる生き物を追い払う物質)としての働きと相性がよい結果です。
ただ実験で使ったのはシロシビン単体ではなく、Psilocybe から取り出した “ごちゃまぜ抽出物”や乾燥粉末です。
どの成分がどれくらい効いているのか、シロシビン一つで説明できるのか、それとも他の分子との合わせ技なのかは、まだ分かりません。
それでも、この研究の価値は大きいと考えられます。
これまで「人間の心を揺らすドラッグ」として語られてきたシロシビンを、「キノコと虫の視点」から見直したことで、「人間の幻覚体験は、じつはキノコが虫と戦うために生み出した武器の副産物かもしれない」という発想が、ようやくデータの土台に乗りました。
もし本当に、シロシビンが「虫のゲームコントローラーを奪う」道具として進化してきたのだとしたら、人間が感じる幻覚や悟り体験は、その長い進化の歴史の中でたまたま生まれた“副産物”にすぎないのでしょう。
もしかしたら未来の世界では、「マジックマッシュルームは、人の心をゆらすドラッグ」ではなく、「虫の動きを狂わせるために進化した、したたかな森の化学兵器」と紹介される日が来るかもしれません。
元論文
Wherefore the magic? The evolutionary role of psilocybin in nature
https://doi.org/10.64898/2025.12.17.694186
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

