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【ソ連の家畜化実験】従順な個体を選び続けたら、「見た目」に衝撃の変化が起きた

【ソ連の家畜化実験】従順な個体を選び続けたら、「見た目」に衝撃の変化が起きた

Credit: Lee Alan Dugatkin., Evolution: Education and Outreach(2018)

人類の最良のパートナーである犬がオオカミから進化したことはよく知られています。

野生のオオカミは獰猛で攻撃的であり、人に近づくことはしませんが、約2万〜4万年前に一部の比較的大人しいオオカミたちが人間の食べ残しを漁りにやってきました。

その中で人とオオカミの交流が始まり、大人しい性格のオオカミ同士をかけ合わせることで、人懐っこくて穏やかな犬が誕生したのです。

オオカミの「家畜化」による犬の進化は何千年という長いスパンで起こりましたが、旧ソ連の遺伝学者だったドミトリ・ベリャーエフ(1917〜1985)はこう考えました。

「人の手で実験的に交配を操作することで、他の動物でもより短い期間で家畜化できるのではないか?」

こうして始まったのが「家畜化実験」です。

この実験は40年以上にわたって続けられますが、その結果、驚きの生物が誕生します。

目次

  • ソ連で遺伝学を研究するのは「死」を意味した⁈
  • 「家畜化実験」の始まり
  • ついに「見た目」まで激変し始めた!

ソ連で遺伝学を研究するのは「死」を意味した⁈

ベリャーエフが描かれたポストカード/ Credit: en.wikipedia

ベリャーエフは1934年に農業大学に入学し、遺伝子の研究を始めます。

しかし当時のソ連で遺伝学の道に進むのは実に危険なことでした。

というのも西洋社会ではその時、親の見た目や性格などは遺伝子によって子に伝わるとする「メンデルの遺伝学」が大きく支持されていました。

ただこれは見方を変えれば「人の運命は遺伝子によって決まる」とも捉えることができ、階級闘争や社会主義的な進歩を掲げるソ連の政治的イデオロギーとは相反していたのです。

そこでソ連の著名な生物学者だったトロフィム・ルイセンコ(1898〜1976)「見た目や性格は遺伝子ではなく、育った環境でいくらでも変わる」と、メンデルの遺伝学に真っ向から反対する学説を唱えます。

そしてこれを大いに支持したのがソ連の最高指導者スターリン(1878〜1953)だったのです。

Credit: canva(ナゾロジー編集部), ja.wikipedia

こうしてソ連では1920年代から国全体でメンデルの遺伝学を否定し、ルイセンコの理論を支持する「ルイセンコ主義」が急速に拡大します。

その中でメンデルの遺伝学を研究していた学者たちは仕事をクビにされたり、牢獄に収容されたりしたのです。

そのせいで死に至った遺伝学者も多くいました。

ベリャーエフの実の兄で遺伝学者だったニコライもこの時に命を落としています。

ベリャーエフ自身も周りにバレないようこっそりと遺伝子の研究をしていたのですが、1948年にバレて一度クビになります。

クレムリンで演説するルイセンコ。画面右にスターリン/ Credit: ja.wikipedia

ところが1953年にスターリンが死去したことで、ソ連内での遺伝学の規制が徐々に緩和されていきました。

そしてベリャーエフは1958年、シベリアに新たな遺伝学研究所を創設し、本格的に遺伝子の研究を開始します。

そこで彼が着手したのが「家畜化実験」でした。

では、ベリャーエフが家畜化の実験台に選んだ動物は何だったのでしょうか?

「家畜化実験」の始まり

家畜化は飼育とはまったく違います。

飼育は動物の性質はそのままに、餌や住居を与えて育てることです。

なのでライオンやトラなど、飼育はできても獰猛な性格を遺伝的に変えることはできません。

一方の家畜化は、ある特定の性質(大人しいとか人懐こい)を持った個体同士をかけ合わせ、それを何世代にもわたって繰り返すことで、その動物自体を人間が管理しやすい種に変えてしまうことを意味します。

ただ家畜化は思ったよりも難しい作業であり、人類がこれまでに成功した例はわずかです。

6000種いる哺乳類の中でも家畜化できているのは数十種であり、その中でも世界中で家畜化できているのは「ウマ・ヒツジ・ブタ・ヤギ・ウシ」の5種くらいしかいません。

実は家畜化はかなり難しい/ Credit: canva(

なぜこんなに家畜化が難しいのかというと、家畜化できる動物はいくつかの条件を満たしていなければならないからです。

その条件とは例えば、

・気性が穏やかで、元から比較的大人しいこと

・人が近くにいたり、飼育下に入れられてもパニックにならないこと

・いろんな餌に適応し、わりかし何でも食べること

・人目があったり、飼育環境下でもスムーズに繁殖してくれること

・子供から大人へと成長スピードが速いこと

などです。

そこでベリャーエフはこれらの条件を満たす動物を選び、人の手で集中的に交配を操作すれば、犬よりもずっと短いスパンで家畜化が起こるのではないかと考え、実験を開始しました。

そうして選ばれたのが「キツネ」です。

特にベリャーエフが選んだのは、黒と白の体毛が特徴的な「ギンギツネ(Silver fox)」でした。

キツネは元来、遺伝的にオオカミに近い動物であり、ギンギツネも野生個体では人への警戒心や攻撃性が強く、懐くような種ではありません。

ただベリャーエフは「犬の祖先もオオカミだし、キツネでもいけるやろ」と考えました。

ギンギツネ/ Credit: en.wikipedia

ベリャーエフら研究チームはまず、比較的人懐っこく、従順な性質を持っているギンギツネを集め、オス30頭・メス100頭で家畜化実験をスタートします。

そして翌1959年に最初の子供たちが生まれました。

生まれた子供たちには定期的に、どのくらい人懐っこくて大人しいかを評価するためのテストを行い、それをもとに3つのグループに分けています。

1つ目はかなり人懐っこくて大人しい性質を持つグループ。

2つ目は人に触られることは嫌がらないものの、それほど人懐っこくはないグループ。

3つ目は人懐っこくもないし、全然なつかないグループです。

さらにチームはそれぞれのグループごとに、同じ性質を持ったキツネ同士で交配を続けました。

家畜化実験の様子(ギンギツネと共同研究者のリュドミラ・トルート女史)/ Credit: Lee Alan Dugatkin., Evolution: Education and Outreach(2018)

このとき、キツネに対して調教などは一切せず、純粋に遺伝的なかけ合わせのみによる変化を観察しています。

加えて、近親交配のしすぎで遺伝子に支障が起きないよう、定期的に他の農場から同じ性質を持つキツネを集めて、それぞれのグループ内に導入しています。

その結果、世代を経るごとに1つ目のグループのキツネたちはますます人懐っこさや従順さを増していき、野生のギンギツネとは大きく異なる穏やかな性質を持ち始めました。

そしてついにキツネたちは中身だけでなく、見た目も大きく変貌させ始めるのです。

配信元: ナゾロジー

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