・手がかりはサインボール
まず叔父に聞いてみた。すると意外なことに、叔父はその場にいなかったにもかかわらず、なぜかサインボールを持っているという。
「見せて」と頼むと、叔父はすぐに家からボールを持ってきた。
そんなにすぐ取り出せる場所に保管していたことにも驚いたが、20年以上残してあることにも驚いた。それほどの選手なのだろうか? そう思い、
「これ誰のサイン?」
と聞くと、叔父はこう答えた。
「だれだかわかんね(誰なんだかわからない)」
誰のサインなのかわからぬまま、20年以上も大切に(しかもすぐ出せる場所に)保管していたとは、叔父も叔父で、ただものではない……!
ただし、ボールの裏面には「OPENING SERIES」と書いてあった。さらによく見ると「ニューヨーク・ヤンキース」と「デビルレイズ」のチームロゴ、そして日付が書いてある。
2004年3月30日、31日。
調べてみると、この年、メジャーリーグの開幕戦が日本で行われていた。
東京ドーム。ヤンキース対デビルレイズ。
かなり絞れてきた。
そこで私はサインボールの写真を撮り、AIに見せてみた。するとAIは自信満々にこう答えた。
「桑田真澄です」
絶対に違う。姉も即座に「違う」と反応。
姉の証言によれば、そのメジャーリーガーは褐色の肌で、見上げるほど大きな男だったらしい。比較的色白な桑田氏とは明らかに違う。
そこで今度はSNSに投稿した。
「このサインボール、誰のものかわかる人いますか?」
すると、さまざまな推理が集まってきた。
AIに聞く人。筆記体から推理する人。当時の試合メンバーから絞る人。なかなか面白い展開である。
その中で、知人のデザイナーが “技あり” とも言うべき画期的な方法を用いての特定を果たした。
彼は、サインの筆記体を手がかりに、海外のオークションサイト「eBay」で同じサインボールを探したのである。頭よすぎ……!
すると、完全に一致するサインが何個も何個も見つかった!
そして、ついに名前が判明。
その男の名は──
ルーベン・シエラ。
プエルトリコ出身のメジャーリーガーで、打点王をはじめ、多くの実績を持ち、1980年代後半〜90年代を代表するスイッチヒッターとして名を馳せたレジェンド。
テキサス・レンジャーズを皮切りに、オークランド・アスレチックス、ニューヨーク・ヤンキース、デトロイト・タイガース、シンシナティ・レッズ、トロント・ブルージェイズ、シカゴ・ホワイトソックス、シアトル・マリナーズ……など数多くの球団を渡り歩いた外野手だ。
そして2004年、彼はヤンキースに在籍していた。
そう、つまり──
東京ドームで行われた、あの開幕戦のメンバーだ。
では、なぜその年、日本でメジャーリーグの開幕戦が行われたのか。
理由はひとつ。
松井秀喜である。
ヤンキース移籍2年目である松井選手の凱旋試合だったのだ。彼は2試合目でホームランをカッ飛ばし、これ以上ないかたちで日本のファンに「メジャーリーガー松井」を見せつけた。
そのチームメイトだったルーベン・シエラが、試合の合間に羽鳥商店を訪れ、鬼瓦を手に入れ、サインボールを残していった──。
そういう話だったのである。まだ集合写真は出てきてないが、ようやく謎が解けた。めでたし、めでたし。
・海外へ旅立った鬼瓦
現在、ルーベン・シエラは60歳。今どこに住んでいるのかはわからない。
だが、もし、海外のどこかにある彼の家に羽鳥商店から旅立った鬼瓦が飾られていたら、ちょっと嬉しい。
きっと天国に旅立った祖父や祖母、そして父も、同じように思っているはず。
あの日、羽鳥商店から送り出された鬼瓦は、まるで場外ホームランのように海を越えていった。
世界へ飛んでいった、小さな瓦屋の「おもてなし」。
完
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24
