戦争が“エネルギーと通貨”を壊す時代に日本人が持つべき資産
では、その延長線上にある最大の現実、すなわちホルムズ海峡封鎖という事態を前提にしたとき、我々日本人は何を持つべきなのか。
ホルムズ海峡の封鎖は、日本にとってエネルギー供給の寸断を意味する。原油やLNGの輸入が滞れば、電力、物流、食品といったあらゆるコストが連鎖的に上昇する。これは遠い中東の問題ではなく、日本の生活コストそのものの問題になる。
そのとき市場で起きるのは典型的な逆回転だ。株式は一時的に売られるが、インフレヘッジとして一部は戻る。債券はインフレによって実質価値が棄損する。通貨は「安全かどうか」ではなく「購買力を維持できるか」で選別される。
ここで多くの人が陥るのが「どの通貨が安全か」という発想だ。だがドル安と円安が同時に進む局面では、この問い自体が意味を失う。強い通貨が存在しないからだ。だから必要なのは、どれか一つを選ぶことではなく、役割ごとに分けて持つという発想になる。
円は生活通貨として持つ。守る通貨ではなく使う通貨だ。生活費や短期の支払いに必要な流動性は確保しなければならないが、過剰に持てばインフレで静かに削られる。ドルは決済通貨として持つ。価値保存ではなく、資源取引や国際金融にアクセスするための機能として持つ通貨だ。
そして第三通貨。スイスフランやシンガポールドルのように、構造的に壊れにくい通貨を組み込む。ただし重要なのは「強そうな通貨」を選ぶことではない。危機時に自国通貨を守る力があるかという国家の設計そのものを見ることだ。
「信用は、壊れ始めている」ことを見落とすな
現実にはこれらの通貨は持ちにくい。だから通貨そのものではなく、その国の企業や市場、あるいは通貨バスケットを通じて間接的に持つ。完全な再現ではなく、構造として近いものを組み込む。
香港ドルは第三通貨にはならない。ドルと同じ方向に動くよう設計されているからだ。ただし香港の本質は通貨ではない。資本の接続点としての機能だ。したがってこれは価値保存ではなく、資本アクセスの手段として捉えるべきだ。
ここまでで見えてくるのは、通貨とは信じるものではなく、使い分けるものだという現実だ。円かドルかではない。どの通貨も壊れる前提で役割を持たせる。
そしてもう一つ、見落としてはならないことがある。信用は、壊れ始めている。プライベートクレジットの「核の冬」、エネルギー供給の不安定化、通貨の同時劣化。これらは別々の現象ではない。一つの流れの中で起きている。
ホルムズ海峡封鎖は単なるショックでは終わらない。その歪みは一年後、確実に後遺症として現れる。エネルギー価格の上昇は時間差で生活を直撃し、通貨の価値は静かに削られ、資産格差はさらに拡大する。そのときに削られる側に回るのか、それとも構造を理解した側に立つのか。
市場の構造上、常に少数派が勝利する。誰もが同じ安全を信じた瞬間、それは安全ではなくなる。だから結論は変わらない。
どれか一つを信じるな。どれも信じない形にしておけ。そしてもう一歩踏み込むなら、不確実性そのものに値段をつけられる側に回れ。それが、この歪んだ時代を生き抜くための、数少ない選択肢だ。
具体的にはこうだ。円30%、ドル30%、第三通貨・外貨資産20%。残り20%は、金・エネルギー・保険・インフラといった“不確実性に値段をつける側”に置く。
私は今回のリバウンドでは動かない。それは流動性とショートカバーが作った反発だからだ。本格的に株を買うのは、来年以降に訪れるであろう本当の歪みの局面だ。
文/木戸次郎 写真/shutterstock

