研究者たちが見つけた勝ち筋のヒント

今回の研究からは、「良い科学の話をしていれば自然に広がる」という考え方が、残念ながら通用しないことがよくわかります。
科学の発信は、「何を話すか」だけでなく、「どこで、どう話すか」までしっかり考えなければ届きにくいのです。
しかしこれは、がっかりするような話ではありません。
むしろ科学の魅力を損なわずに、伝え方を工夫することで、もっと多くの人に届けられる可能性があるという希望にもなる話なのです。
同じ内容でも、TikTokでは思い切って短くわかりやすく伝え、Instagramでは見た目や雰囲気を整え、YouTubeではじっくり丁寧に話す。
このように科学そのものを薄めたり変えたりすることなく、SNSの「場」の特徴に合わせて伝え方を少し工夫するだけで、多くの人に伝わるようになるかもしれません。
これは今まであまり意識されてこなかった、非常に重要なポイントをはっきりと示した成果です。
さらに論文で示されているもう一つ重要な視点があります。
それは、SNSがただ情報を流す「通路」ではなく、科学の姿そのものを変えてしまう「フィルター」のような役割を果たしているということです。
考えてみると、私たちはSNSごとに違った気分や期待感を持って集まります。
TikTokなら短くて驚きのある動画を、Instagramなら美しく心地よい投稿を、YouTubeなら詳しい説明や納得感を求めるという具合です。
さらにSNSのアルゴリズムと呼ばれる機能も大きく関わっています。
アルゴリズムとは、「人が何に興味を持つか」を予測し、それに合わせて動画や投稿を見せる順番を調整する仕組みのことです。
これが私たちの目に入る科学情報の種類や順序を決めるため、どの科学が人気になり、どの科学が見過ごされてしまうかまで影響しうるのです。
このように、科学を伝えるということは、もはや科学の内容だけの問題ではなく、どこでどのように情報を届けるかという「場のデザイン」も考える必要があるのでしょう。
もちろん、この研究の通りにすればどんな人も成功するというわけではありません。
というのも、今回研究者が調べたのは、もともとフォロワーが多く、すでに人気がある発信者の投稿に限られています。
つまり、小さな規模で発信を始めたばかりの人に、この研究の結果がそのまま当てはまるかどうかは分からないということです。
それでもこの研究には大きな価値があります。
なぜなら、今回の結果は科学を伝える方法について非常に実用的なヒントを提供しているからです。
学校で理科や社会を教える先生、研究の魅力を一般の人にも伝えたいと願う研究者、そして科学ニュースを発信するメディアにとっても、「どのSNSでどのように伝えれば、人々の興味を引きやすいのか」という具体的なヒントになるはずです。
こうした中で、正確で価値のある科学の情報がもっと上手に届けられるようになるなら、それは社会全体にとっても良い影響をもたらすでしょう。
もしかしたら将来的には、科学者が研究を発表する際、「どのSNSでどのような話し方をするか」を、研究の内容そのものと同じくらい真剣に考える日がやってくるかもしれません。
次のページでは「科学系インフルエンサーの勝ち筋」をまとめた虎の巻的な表をまとめます。
科学系インフルエンサーの虎の巻
以下の表は、論文の結果と著者たちの提案をもとに整理したものです。

この表は、「同じ科学の話でも、出す場所ごとに勝ち方が違う」という論文のいちばん大事な結論をまとめたものです。
ざっくり言えば、TikTokはまず反応を集める場、Instagramは見た目のよさや前向きさで好感を作る場、YouTubeはすぐの反応よりも、筋道だった説明で理解を深める場と言えるでしょう。

この表は、SNSの違いだけでなく、科学の分野によっても反応の出方が変わることを整理したものです。
工学や物理・数学は「なるほど」と受け止められやすく、いいねやリアクションが強めで、社会科学は「それはどういうこと?」と意見したくなるぶんコメントが伸びやすい、という違いが見えます。
健康科学は信頼感を崩さないことが大事で、実験科学は少し明るさや人間味を足す余地があり、芸術・人文科学は派手な数字より余韻や批評性が残るタイプです。
「科学発信」と一口に言っても、分野ごとに読者が求める反応が違うわけです。

この表は、印象論ではなく数字だけで三つのSNSを比べたものです。
ここでまず目立つのは、TikTokがいいね、コメント、リアクション、投稿反応率でかなり強いことです。
一方でYouTubeは、すぐの反応では見劣りしやすくなっています。
ただそれが価値の低さとイコールではありません。
むしろ「バズの強さ」と「じっくり伝える力」は同じではないということが浮き彫りにされます。

この表は、論文全体の結果と研究者たちの提案をまとめたもので「何を伝えるか」だけでなく、「どこで伝えるか」と「どんな目的で伝えるか」を先に決めることが重要であることを示しています。
とにかく反応を集めたいならTikTok、好感や共有を狙いたいならInstagram、理解や保存版の価値を残したいならYouTube、という使い分けが基本線になります。
また、工学系は「なるほど」を取りやすく、社会科学は「語りたい」を起こしやすいなど、分野によっても勝ち方が変わります。
ただしこれは人気上位投稿から見えた傾向を研究者の提言をもとにまとめたもので、先にも述べたように、この通りやれば誰でもこうなるというわけではありません。
元論文
Science communication in social Media: Analysis of success on TikTok, Instagram, and YouTube across scientific disciplines
https://doi.org/10.1016/j.chb.2025.108866
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

