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アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に

アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に

アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に
アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に / Credit:Canva

アメリカのカンザス大学(KU)とセントクラウド州立大学で行われた研究によって、頭に光る「ちょうちん」を持つ深海アンコウは、光らない仲間に比べて2〜3倍も速いペースで新しい種を生み出していたことが明らかになりました。

あの「ちょうちん」は単なる餌とりの道具ではなく、種の爆発的な増加を後押しした進化の起爆剤だった可能性があります。

いったいなぜ、「光」がこれほどの進化の加速を生んだのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年3月27日に『Ichthyology & Herpetology』にて発表されました。

目次

  • 7200万年前に始まった「自然界の道具箱」
  • 暗闇の中で「光」を手に入れたとき、何が起きたか
  • 光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」でもあった
  • 「道具が通信も兼ねたとき、多様性が爆発する」

7200万年前に始まった「自然界の道具箱」

アンコウのちょうちんは、背びれの一番前のトゲが細長い竿状に変形し、それを支える土台の骨ごと頭の上に移動して、先端に、光るバクテリアを住まわせる小さな「ランプ」がぶら下がっています。
アンコウのちょうちんは、背びれの一番前のトゲが細長い竿状に変形し、それを支える土台の骨ごと頭の上に移動して、先端に、光るバクテリアを住まわせる小さな「ランプ」がぶら下がっています。 / Credit: Maile & Davis, Ichthyology & Herpetology 114(1), 2026 / CT scan sourced from MorphoSource / American Society of Ichthyologists and Herpetologists / CC BY

アンコウの仲間が地球上に登場したのは、恐竜時代の終わり近く、約7200万年前のことです。

研究チームは、13個の化石記録を使って進化の系統樹を時間軸に沿って較正し、ロサンゼルス郡自然史博物館、フィールド自然史博物館、フランス国立自然史博物館などに保存された102種・118点の標本を実際に手に取って測定しました。

「多くのアンコウは、生きた姿を撮影されたことすらないのです」とデイビス教授は語っています。

マイレ氏がロサンゼルス郡自然史博物館でアルコール漬けの標本瓶を手に取ったとき、最初に驚いたのは「誘引器の形態の多様性の多さ」だったと言います。

光るもの、ぴくぴく動くもの、スライドホイッスルのように頭蓋骨から飛び出して化学物質を噴射するもの――400種を超えるアンコウの仲間は、それぞれ独自の「釣り道具」を進化させていたのです。

では、その多様な道具はどのような順番で進化したのでしょうか。

研究チームが明らかにした進化史は、こうです。

まず最初に登場したのは「機械式ルアー(動きで誘うタイプ)」。

背びれの棘が変形した棒状の突起(イリシウム)の先端に、組織のかたまり(エスカ)がつき、それをゆらゆら動かして獲物を誘い込みます。

光らず、化学物質も出さない、純粋に「動き」だけの罠です。

このシンプルな道具は驚くほど長く使われ続けました。

浅い海底に棲むカエルアンコウやアンコウ(monkfish)は、祖先的な機械式ルアーの基本構造を、現在も受け継いでいます。

さらに面白いのは、一部のアンコウが「第3の道具(化学物質で誘うタイプ)」も独自に開発したことです。

コウモリウオの仲間は約5000万年前に、カエルアンコウの一種は比較的最近の500万年前に、化学物質で獲物をおびき寄せる能力をそれぞれ別々に獲得しています。

同じ問題に対して、まったく異なる解決策が繰り返し発明される――アンコウの「道具箱」は、まさに進化の実験室です。

しかし、アンコウの進化史で最も劇的な変化が起きたのは、一部のグループが深海に移住してからのことでした。

次のページでは、暗闇の中でアンコウが手に入れた「新しい武器」と、それがもたらした予想外の結果を見ていきましょう。

暗闇の中で「光」を手に入れたとき、何が起きたか

アンコウの「ちょうちん」可動域は種ごとに異なる
アンコウの「ちょうちん」可動域は種ごとに異なる / カエルアンコウ科の広い回転角度からムチアンコウ科の限定的な動きまで、科ごとの「釣り方」の違いが可動角度で定量化されている。/Credit: Maile & Davis, Ichthyology & Herpetology 114(1), 2026 / American Society of Ichthyologists and Herpetologists / CC BY

映画「ファインディング・ニモ」で、歯がぎらぎら光るアンコウに追いかけられるシーンを覚えている方もいるのではないでしょうか?

あの不気味な光の正体は、メスのアンコウの頭から突き出た誘引器の先端(エスカ)に住みつく発光バクテリアが放つ輝きです。

しかし、光る誘引器はアンコウが地球に登場した当初から存在していたわけではありません。

日光が届かない深海に進出したアンコウたちが、あるとき直面した問題は明白でした。

真っ暗で、水は冷たく、餌は乏しい。

浅い海底でうまく機能していた「動きで誘う」戦略は、光がなければ獲物に見えません。

水深数千メートルの暗闇で、ゆらゆら揺れるだけの透明な棒を振っても、誰も気づかないのです。

そこでアンコウは、およそ3400万年前から2300万年前にかけて、新たな進化上の一手を打ちました。

エスカの内部に、自ら光るバクテリア(生物発光バクテリア)を住まわせ、光らせ始めたのです。

この発光バクテリアは、自由に暮らす近縁種と比べて遺伝情報が約半分にまで縮小しており、エスカの外ではもう生きられない体になっています。

アンコウと発光バクテリアは、文字どおりの「運命共同体」を築いたのです。

アンコウ類の誘引器の多様性
アンコウ類の誘引器の多様性 / 26種のアンコウの誘引器を並べた標本写真集。イリシウム(I)、エスカ(E)、翼状骨(P)の長さと形態の違いが一目で比較できる。/Credit: Maile & Davis, Ichthyology & Herpetology 114(1), 2026 / American Society of Ichthyologists and Herpetologists / CC BY

ここで1つ、興味深い事実があります。

光る種のルアーは、光らない種のルアーに比べて約3倍も長いのです。

なぜわざわざ長くする必要があったのでしょうか。

マイレ氏とデイビス教授の推測はこうです。

ルアーが短ければ、光が自分自身の体を照らしてしまいます。

深海のアンコウは赤や黒の体色で暗闇に溶け込んでいるのに、顔のすぐ前で光を灯せば、巨大な口と鋭い歯が獲物にも天敵にも丸見えになってしまう。

だからルアーを長く伸ばして、光と体の間に距離を取ったと考えられています。

暗い部屋でスマホの画面を見ると、自分の顔がぼんやり照らされてしまう――深海のアンコウにとっても、同じ問題が起きるのです。

さて、ここまでの話をまとめると、深海アンコウは「光」という新しい武器を手に入れ、それを体から遠ざける工夫まで進化させたことになります。

しかし、ここで1つの謎が残ります。

光で餌が獲りやすくなったのなら、それだけで十分に有利なはず。

ところが研究チームの解析によると、光る誘引器を持つグループは、光らないグループに比べて2〜3倍も速いペースで新しい種を生み出していたのです。

「餌が獲りやすくなった」だけでは、これほどの差は説明がつきません。

では、光にはほかにどんな役割があったのでしょうか?

配信元: ナゾロジー

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