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カオス系の中に「秩序の核」が存在することを量子AIが発見――実証にも成功

カオス系の中に「秩序の核」が存在することを量子AIが発見――実証にも成功

3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」

研究チームは量子AIによる「秩序の核(Q-Prior)」の実力を確かめるために、3段階のカオス問題の予測テストを用意しました。

テスト1:揺れる縞模様を追え

3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」
3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」 / (A)時間経過に伴う速度場の変化と誤差マップ、(B)速度の確率密度関数、(C)エネルギースペクトル、(D)相空間上の不変測度の密度、(E)時間自己相関。Q-Priorなしモデルでは時間とともに縞模様がずれていく様子が、Q-Priorありでは保たれている様子がわかります。Credit: Maida Wang et al., Science Advances(2026)

最初は、時間とともに揺れ動く「縞模様」の予測です。

風になびくカーテンの縞を想像してください。

風が吹くたびにシマの位置は変わりますが、「縞っぽさ」自体は保たれています。

Q-Priorなしのモデルは最初こそ縞を再現しましたが、時間が経つにつれてじわじわとずれていきました。

Q-Priorありでは500ステップのロールアウトでも統計構造を保ち、最初の100ステップで予測誤差が約17%減少しました。

テスト2:溶けゆく渦巻きを保て

3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」
3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」 / 同じ初期状態から出発した正解データ(上段)、Q-Priorあり(中段)、Q-Priorなし(下段)の速度場スナップショットを、6つの時刻で横に並べています。Q-Priorなしでは渦の構造が早く崩れてぼやける一方、Q-Priorありでは正解に近い構造が保たれる過程が時系列で見られます。Credit: Maida Wang et al., Science Advances(2026)

次はぐるぐる回る2次元の渦巻き流。

ラテアートを思い浮かべてください。

Q-Priorなしでは模様が時間とともにぼやけてノイズの海に溶けましたが、Q-Priorありでは渦巻き構造が長時間保たれました。

テスト3:ルールブックなしの乱流

3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」
3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」 / (A)3D乱流チャネル流シミュレーションの瞬間速度場。赤い楕円で2D断面の切り出し位置を示しています。(B)QIMLモデルが生成した合成乱流流入条件。Credit: Maida Wang et al., Science Advances(2026)

最後は3次元の乱流です。

激しく流れる川を真横からスパッと切って、その断面の水の動きだけを予測するようなもの。

しかもこの断面だけの動きを支配する方程式は存在しません。

さらにこのテストでは初めて、IQM社の超伝導量子プロセッサという本物の量子ハードウェアが投入されました。シミュレーターではなく、ノイズもエラーもある実機です。

結果はQ-Priorなしのモデルは全滅。

最先端のAIモデル(FNOやMNO)も破綻しました。

しかしQ-Prior付きのものだけが安定な長期予測を維持したのです。

使った量子ビットは10〜15個、パラメータは300未満。

10万個以上を必要とした従来手法とは桁違いの身軽さです。

しかも本物の量子マシンで作ったQ-Priorと、シミュレーターで作ったQ-Priorの性能がほぼ同等でした。今のノイズの多い量子コンピュータでも実用的に使えることを示す重要な結果です。

メモリ面でも、500メガバイトの生データがわずか約2.3メガバイトに圧縮されています。

カオスの底に何が見えたのか

3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」
3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」 / 正解データ、QIML(シミュレータ版・IQM実機版)、CIML(大パラメータ版・小パラメータ版)、古典Koopman ML、FNO、MNOの8条件について、時刻t=10からt=100まで10ステップ刻みで速度場のスナップショットを横に並べています。QIMLだけが正解データに近い構造を長期間保ち、他のモデルが次第に崩壊・固定化していく様子Credit: Maida Wang et al., Science Advances(2026)

共同筆頭著者のXiao Xue氏は、この成果をこう位置づけています。

「量子コンピューティングを古典的な機械学習と有意義に統合し、複雑な動的システムに取り組めることを初めて実証しました」

量子と古典を組み合わせる試み自体は以前からありましたが、実用的な問題で明確な差が出た例はほとんどありませんでした。

しかし今回の研究では3つのカオス系について、量子AIが掴んだ「秩序の核」が長期的な予測に大きな力となることを示すことができました。

その過程で見えてきたのが、カオスの統計構造と量子もつれの間にある不思議な類似性の可能性でした。

研究チームは今後の展望として、興味深い可能性を示しています。

ある系で訓練したQ-Priorが、統計的に似た性質を持つ別の系にもそのまま使えるかもしれない、というのです。

もしそれが実現すれば、1つのQ-Priorで複数の異なるAIモデルをガイドできることになります。

さらにコベニー教授は、「気候予測、血流や分子間の相互作用のモデリング、風力発電所の設計改善」といった応用先を挙げています。

ただし今回の検証はすべて数値シミュレーション上のもので、こうした実世界のデータでの実証はこれからの課題です。

それでも、この研究が見せた景色は強く印象に残ります。

カオスは「でたらめ」ではなかった。

その底には確かに秩序が沈んでいて、その秩序は量子もつれに似た形をしていた可能性がある。

だから量子コンピュータが、ほんの少しの道具だけで、それを丸ごとすくい取ることができた。

もしカオスの予測がこれまで難しかった本当の理由が、カオスが複雑すぎるからではなく、私たちがカオスの中にある「秩序の形」をまだ知らなかったからだとしたら――量子コンピュータは、カオスと秩序を結ぶ架け橋の最初の一本を、たった今かけたのかもしれません。

配信元: ナゾロジー

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