これは、とある男性が実際に体験した、逃れられない未練のお話です。
体験者さんは数年前まで、眠らぬ繁華街の片隅で、夜の店へ女性を案内する「スカウト」の仕事をしていました。
ネオンが明滅する中、毎日同じ場所に立ち続け、店を支えてくれそうな女性を探して声をかける。
「お店で働きませんか?」
そんな使い古された言葉を繰り返す日々でしたが、思うように成果は上がらず、彼は焦燥感に苛まれていました。
闇から這い出す「私、働きたいです」
そんなある夜のことです。いつもの立ち位置で獲物を探していると、背後からスッと、冷たい気配と共に声をかけられました。
「すみません……」
振り返った瞬間、彼は思わず言葉を飲み込みました。
そこにいたのは、腰まで届くような真っ黒なロングヘアーを、前髪と共にダラーンと長く垂らした女性でした。服はどこで汚れたのか、薄汚れて小汚く、繁華街の華やかさから完全に浮き上がっています。
彼女は力なく、まるですり鉢で削られたような、か細い声でこう言ったのです。
【私、働きたいです】
スカウトとしての直感でした。申し訳ないのですが、そのあまりにも生気のない姿を見ると、到底華やかな夜の仕事が務まりそうにはありません。
「ごめんなさいね、他を当たってくれるかな……」
彼はそう告げて、彼女を拒絶しました。
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繰り返される志願、そして同僚の震える告白
しかし、恐怖は翌日から始まりました。
また背後から「私も働きたいです」という、あの消え入りそうな声が聞こえてくるのです。振り返れば、昨夜と全く同じ黒髪、同じ汚れた服、同じ絶望的な格好をした彼女が立っていました。
「ごめんね、無理なんだ」
いくら断っても、その日から彼女は、彼が立つ場所から少し離れた位置にずーっと居座るようになりました。同じ場所で、同じ格好のまま、こちらをジーッと見てくるのです。
その異様な姿と執拗な視線に、彼は言いようのない気味悪さを覚え、近くにいた同僚に助けを求めました。
「あの人、やばくない? この前からずっとあそこに立って、こっちを見てるんだけど……」
すると、事情を知る同僚は、顔をこわばらせてこう返したのです。
「お前にも見えてるんや……あれ……。もうすでに死んでる子やから」
あまりにもハッキリと姿が見えるため、最初は聞き間違いか冗談だと思いました。しかし、その同僚は決してそんな嘘をつくタイプではありません。改めて、数メートル先に立つ彼女を凝視しました。
すると、確かに普通の人間とは決定的に何かが違う、説明のつかない「違和感」が、彼の全身にまとわりついて離れなくなったのです。
