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ロヒンギャ虐殺6000人…“世界最悪の迫害”を描いた映画『LOST LAND/ロストランド』が突きつける沈黙の罪

ロヒンギャ虐殺6000人…“世界最悪の迫害”を描いた映画『LOST LAND/ロストランド』が突きつける沈黙の罪

「世界で最も迫害されている民族」と国連が位置づけたロヒンギャ。2017年の軍事掃討作戦では、わずか1カ月で少なくとも約6000人が殺害され、5歳未満の子ども730人も犠牲になったとされる。いまも約110万人が難民キャンプでの生活を強いられるなか、その現実を“子どもたちの旅”として描いた映画『ロストランド』が公開された。監督の藤元明緒は、なぜこのテーマに向き合ったのか。

長きにわたってタブーだったロヒンギャの問題

世界で最も迫害されている民族と国連が位置付けたミャンマーの少数民族ロヒンギャ。1982年に制定されたミャンマー市民権法によってミャンマー政府から、いきなり国籍を剥奪されて無国籍にされたこの民族は、公民権を失い、国内でも移動の自由が認められず、居住地を限定されるなど、複合的な弾圧を受けていた。

ミャンマー政府の目的は、ロヒンギャが居住する西部ラカイン州を横断するパイプライン利権の独占とも言われているが、ミャンマーの人口の9割は仏教徒であり、イスラム系であるロヒンギャに対する宗教差別=ヘイトクライムの側面もある。

1950年代には国会議員や閣僚まで輩出していたロヒンギャの国籍を剥奪し、仏教徒との婚姻も制限するという凄まじい人道破綻であった。さらに国外への追い出しを狙ったミャンマー国軍は2017年8月25日から軍事掃討作戦を展開する。

このときは、一か月間で、少なくとも約6000人のロヒンギャが虐殺され、5歳未満の子供730人も含まれていたことが「国境なき医師団」によって報告されている。

居住地に対する焼き討ちや兵士による組織的なロヒンギャ女性に対する性テロリズムは凄惨を極め、直後に約80万人が隣国バングラデシュに難民となって流出した。

その後、2021年に起きた国軍クーデターによって、更に弾圧に拍車がかかり、現在、このバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプには約110万人が押し込められている。

「ロストランド」は現在も厳しい迫害の中で生活を強いられるこのロヒンギャの姉弟シャフィ(5歳)とソミーラ(9歳)が叔母とともに難民キャンプを出て、マレーシアに暮らしている両親に会いに行くロードムービーである。

ロヒンギャの問題に触れる事は、ミャンマー国内外の民主化勢力の中でも長きにわたってタブーとされていた。アウンサンスーチーや日本で暮らすNLD支持者も口を閉ざすか、もしくは「彼らは違法移民のベンガル人であってミャンマー国籍は奪われて当然」等々、政府が流している歴史修正に基づく排外的な見解を発信していた。

SNSでは、ロヒンギャの男性が仏教徒の女性をレイプしているなどと、根拠の無いデマが拡散され。国連はFacebook社がこれらのヘイトスピーチを野放しにしており、憎悪扇動に加担してことを報告書に上げている。

すでにミャンマー市民権法制定から40年以上が経過しており、分断は一般市民の中でも深刻に刷り込まれている。

筆者の知る限り、ロヒンギャに対して科学的で人道的な知見を公言している在日ミャンマー人は、大阪在住のアウンミャッウインだけである。

デビュー作「僕の帰る場所」で難民申請中の在日ミャンマー人家族を描いた藤元明緒監督がミャンマー国内で最も被差別の地位にあるロヒンギャをいかにして知り、モチーフにしたのか、そのプロセスにまず興味が湧いた。

「僕が最初にミャンマーに行ったのが2013年なのですが、ロヒンギャについてはその当時から、現地の人々の口から聞いていました。旧首都のヤンゴンなどでは、訊ねてもいないのに、いわゆるロヒンギャヘイトを言われるので、なぜ、そこまでロヒンギャを嫌うのか。それで逆に興味を持ったんです。

体験として大きかったのは、やはりラカイン州で軍事掃討作戦が起こった2017年8月ですね。当時は、ミャンマー国内の撮影現場にいたんですけれどもロヒンギャの虐殺については絶対に触れてはいけない空気があって、周囲の人間が誰もかれもそのことを一切話さないんです。

すごく強烈な違和感、居心地の悪さを感じたというのが、振り返ってみると大きな経験だったと思います。だから映画にする前はもう(ロヒンギャについて)人に聞くこともやめていましたが、映画を撮ると決めてからは、記者の方のレポートや国外に住んでいるロヒンギャの人々に聞いて取材を進めました」

ドキュメンタリーのようなリアル

「僕の帰る場所」からミャンマーの問題を掘り下げていく中でぶちあたったのが、ロヒンギャのテーマ、いわば必然でもあったといえよう。

本作の主人公のシャフィとソミーラは、ブローカーの手配した漁船に押し込められて海を渡り、上陸後は、人身売買の魔手を逃れ、密林の中で飢えと戦いながら、ひたすら目的地を目指す。

これらのトピックは監督による綿密な取材に基づいている。実際にロヒンギャの子供をさらう組織はインドのコルカタに存在しており、私もバングラデシュのキャンプで逮捕された現場を目の当たりにしている。

本作は劇映画ではあるが、かようにドキュメンタリーのようなリアルを醸し出している。それは道行きの二人がロヒンギャの実の姉弟であり、演技以前にその属性と存在感が大きく影響しているように思える。

––––あの二人は、5歳と9歳。ミャンマー国外で生まれたロヒンギャ難民二世と聞きました。姉弟は自分たち民族が実際にどのような迫害状況に置かれているのか、実際どの程度、理解をしているのでしょうか。

「お姉さんのほうは、撮影当時 9 歳で、彼女が通っているプライベートスクールで同胞の子供からいろいろ実態を聞いていたのですね。『自分は(映画のように)先週、船に乗ってここにやって来たんだ』という子もいるんです。今、自分たちが置かれている状況というのはあのお姉さんに関しては理解していたはずです。弟はまだそこまでは考えていないかもしれません」

––––被差別の属性にある当事者、それも役者ではない素人がドキュメンタリーのように演じるという手法はボスニアの監督、デニス・タノビッチの「鉄くず拾いの物語」が知られています。あれはロマの女性が保険証がなくて手術を受けられないという新聞記事を読んだタノビッチ監督が、この問題は告発しないといけないと、ロマの当事者たちを役者に据えて撮影したものです。主人公の夫のナジフ・ムジチはベルリン映画祭で主演男優賞を受賞しましたが、演出方法として「鉄くず…」は意識されたのでしょうか。

「そうですね。その『鉄くず拾いの物語』とこの『ロストランド』は何が大きく違うかというと、当事者が経験したことをそのままやっていないっていうことですね。

ソミーラとシャフィは海外生まれの二世ですので、国外に逃れてきたときのことは、親からなんとなく聞いてはいますが、実際にロヒンギャとして脱出した経験はありません。自分のリアルを再現するのではなく、自分に起き得たであろう事実をイメージして演じています。

パラレルワールドで自身を演じていくという距離感が微妙に『鉄くず拾い』と違っていると思います」

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