球場は未来を守る場所になれるか
試合終了後には、芝葉を起こす作業やごみ、危険物がないかを機械と目視により必ず確認する。この作業車は、ブラシで芝葉を起こしたり、充填剤(砂・ゴムチップ)をならすメンテナンスを行う。アタッチメントを付け替えることで人工芝の清掃も可能だスポーツ施設が環境問題に向き合う意義を問うと、近藤さんは率直な言葉で返す。
「スポーツが持つ魅力をいつも実感しています。選手たちが人に希望や感動を与えて、活力になっているのは間違いない。その一方で、こういった環境問題への取り組みはきれいごとだと思われるかもしれません。ただ、スポーツを今後も永続的に行うためには責務でもある。見て見ぬふりはできないです」
このきれいごとだけでは済まされず、やらなければいけないという感覚は、現場の実務を担う人の言葉として重いものだ。
新海さんも思いは一緒だ。
「野球や音楽ライブなど、大規模なイベントが行われる施設に関わる者として、改善点や改良できるところは何があるのか、現場レベルの視点で考えながらやっていくことが大事かなと思います」
球場の仕事は、華やかな表舞台を支える裏方だ。試合が終わった後、施設部の仕事はまだ続く。グラウンド整備には通常2時間ほどかける。マウンドや土の部分を整え、磁石をつけたメンテナンスカーで金属片を回収し、人の目でも異物が落ちていないかを確認する。
「選手が傷つかないように、金属片やネジが残っていないかは特に気を配っています。我々はフィールド管理のプロとして、妥協のないようにやりましょうという話はスタッフに毎回しています」
環境と安全は、別のテーマのようでいて、地続きなのかもしれない。選手の足元を守ること、観客が安心して楽しめること、そして施設が未来に負荷を残しすぎないこと。そのすべてが「球場の質」をつくっている。
ただ、球場の役割は環境対策だけではない。最も重要なのは、選手が最高のパフォーマンスを発揮できるフィールドを保つことであり、常に改良が続けられている。例えばマウンドやバッターボックス、内野フィールドの土は複数の種類を使い分け、シーズンごとに改良を重ねているという。内野では赤土のアンツーカーに黒土を混ぜることで、水分量や崩れにくさなど、細かな調整が施されている。
「ドラゴンズの選手とも意見交換をしながら、ここはもう少し良くできるよねという部分を一つずつ改善しています」
プロ野球選手が最高のプレーを発揮できる環境を整えること。それはフィールド管理を担うスタッフにとっての基本姿勢である。
人工芝という一見“当たり前”の存在の裏側には、こうした積み重ねと矜持がある。
スポーツ施設は、勝敗の場である前に、多くの人が集まり各々が影響を与える公共空間でもある。だからこそ、そこから発信される変化は、大きい。バンテリンドーム ナゴヤが始めた生分解性人工芝の導入は、単なる新素材の採用ではない。感動を生む舞台の足元から、環境との共存を考え始めた一つの意思表示である。世界初の一歩は、まだ小さいかもしれない。だが、その一歩があるからこそ、次の球場、次のスポーツ施設、次の観客の意識が少しずつ変わっていく。そうした未来の入口への一歩を、バンテリンドーム ナゴヤは歩み出している。
text by Akihiro Ichiyanagi(Parasapo Lab)
写真提供:株式会社ナゴヤドーム
