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「この作品で笑うなんて信じられない」観客の反応に葛藤…岸田賞W受賞2人が語る“笑いの居心地の悪さ”〈蓮見翔×大石恵美〉

「この作品で笑うなんて信じられない」観客の反応に葛藤…岸田賞W受賞2人が語る“笑いの居心地の悪さ”〈蓮見翔×大石恵美〉

「演劇」を隠れ蓑にして逃げてる人々

――観客の立場で言うと、演劇はどんな作品でも客席に独特の緊張感がある気がします。

蓮見 でも、大石さんの意図を汲んだら、笑わないほうがおかしいって思っちゃいますけどね。「犬」のなかにサンリオの「ポムポムプリン」が登場しますよね。

最初、柴犬の肛門の話をしてたのが、それがなんかポムポムプリンに見えてきたっていう話に飛躍して、そっから最終的にピューロランドまで話が飛んでいくじゃないですか。あの展開はさすがに笑わせようとしてますよね。

大石 もちろんです、私としては。でも「それのどこがおもろいの?」って言われちゃう可能性も普通にあると思います(笑)。

蓮見 う~ん。だとしたらしょうがないけど、あれを面白く思えないのはさすがにちょっとお客さんが鈍すぎるんじゃないかなぁ。

大石 それこそ、お客さんのなかに演劇は黙ってじっと観るべきだっていう刷り込みもあるのかも。私も身に覚えがあって。例えば、東葛スポーツの上演って、ヒップホップマナーの演出だから、爆音で流すトラックに乗せて俳優が観客をラップで煽ってくるじゃないですか。

なのに、観客は微動だにせず座って観てる。絶対に「イエ~イ!」とはならない。客としてその場にいた私自身ならなかったんです。でも、それって冷静に考えたらちょっと異様な光景ですよね。演劇を観にきてるという前提だから、もうそういう身体になってしまっているのかも。

蓮見 東葛スポーツの場合、特定の場面だけじゃなくて、全編ヒップホップで話が進んでいくわけですからね。状況としては、お客さんが踊り出したり、コール&レスポンスが起こったりしてもおかしくない。てか、そういうふうに観るほうが自然な可能性もある。

大石 言葉を選ばずに言うと、そこにめっちゃ日本人らしい反応が出てますよね(笑)。いっそ、客席をスタンディングにしたら状況が変わったりするのかな。

蓮見 もしスタンディングでも反応が薄かったら、それはもう相当根深い何かですよね。

大石 確かに。ただ、これは自戒を込めて言うんですけど、お客さんがノってくれないときや、笑ってくれないとき、上演する側も「演劇だから当然の反応です。別にノること笑うことを目的としてないので」って逃げられもしてしまうのも事実だと思うんです。

こちらに常にエクスキューズが用意されてるというか。そういう作品ばかりではないけれど、悪い意味で「演劇なんでどう観てくれても構いません」に逃げてる作品もあるなと思うことがありますね。

蓮見 「演劇」を隠れ蓑にして逃げてる人々がいるってことですよね。

大石 「演劇」と銘打つことで逃げられる環境が生まれたのは、お客さんのせいだけじゃないと思います。何にも括られないものを描いていますという体で、よく考えきれてないまま上演してお客さんに責任を丸投げしてるものもあるから。

蓮見 そうです。お客さんは一切悪くない。

大石 いや、蓮見さんさっきお客さんのこと結構言ってましたよね(笑)。

理屈と突飛さのラインの見極め

蓮見 ところで大石さんは普段どうやって戯曲書いてます? 僕はいつものことながら、ほんと書くのに時間がかかるんです。書けなくて散歩して、また書けなくて散歩してっていう、ほんとその繰り返しなんですけど。ダダルズって全編、一人語りじゃないですか。やっぱ、自分で声に出しながら書いたりするんですか?

大石 声には出しませんけど、まずはバーっと一気に書いて、あとで整理していきますね。舞台上で実際に口にするのは私なので、それをイメージしつつ、ひたすらパソコンで言葉を打ち込んでいく。自分の語りのクセっていうか、しっくりくるテンポとかもあるので、それは稽古中に声に出しながら調整したりもしつつ。

ある言葉が何かしらのイメージを立ち上げて、そのイメージが次の言葉を呼んでくる感じですかね。そこに大きな飛躍があるってよく言われるんやけど、自分としてはギリギリ理屈が通ってる。柴犬の肛門がポムポムプリンに繫がっていくのだってそうです。人から突飛だと言われるものでも、自分としては一応の理屈が通ってます。

蓮見 おもしろいですね。大石さん的に理屈は通っているけど、他人からしたら突飛かもしれないっていうのは、どの段階で気づくんですか?

大石 バーって書いたあと、読み直したら気づきます。で、そのズレを許容されるものに調整する、もしくは許容されないもの、飛躍として残すのか見せ方を考えます。

蓮見 じゃあ、自分のなかの客観性とずっとせめぎ合ってるわけですね。

――理屈と突飛さのラインをどう見極めるかが難しそうですよね。

大石 かなり感覚的なものにはなっちゃうんですけど、ちょっと日を置いて読み返して「ほんま何言うてんねん」と思う箇所があったら、「これならギリ気持ちいいんちゃうか、気持ちいいって笑ってくれる人もいるんちゃうか」みたいな、グレーなラインまでじりじり寄せていく感じですかね。

実際、うまく寄せられてるかはわからないですけど。蓮見さんはどうですか。書いてる段階からお客さんのことを意識しますか?

蓮見 僕はそれ、けっこう得意なほうかもしれない。だから、ほんと大石さんと真逆ですよね。自分にもお客さんにも理屈の通るものだけを選んでいく感じなので。とくにネタの細かさで笑いを狙うときは、結果的にあるあるネタに近いものになったりもしますね。

ちなみに大石さん、稽古っていつもどんな感じでされてます? そもそも、あの何万字もある戯曲をどうやって覚えてるんだろうなっていうのもあるし。

大石 書いてる段階から演出はしている感覚があります。「このフレーズ3回言うと、私の身体なら次の言葉が出てくるな」とか。書くときからかなり自分の感覚や身体を使ってるので、発語にも馴染みやすいんです。自分オーダーメイドの戯曲って感じです。

だから覚えるのはそんな苦労しなくて。全部、自分のなかで根拠があるし感覚もわかるから、何回か目を通したら自然と覚えられますね。稽古は毎回、友達や知り合いを呼んでその人に向かって話すようにしてます。そこで「私のなかでは3回だけど、人に聞いてもらうなら1回がいいな」とか、人に聞かせる用の言葉に開いていく調整をしますね。

(2026・4・6 赤坂にて) 『すばる』2026年6月号掲載

構成/折田侑駿 撮影/山本佳代子
スタイリング/中島有哉(蓮見翔) ヘアメイク/久木山千尋(蓮見翔)

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