南大西洋を航行中のクルーズ船「MVホンディウス号」が、見えない恐怖に包まれている。5月6日時点で計8人に達したとみられる「ハンタウイルス」の集団感染事案で、乗客3人が死亡した。
船には23カ国から乗客・乗員合わせて約150人が乗り込んでおり、うち日本人乗客が1人含まれていることが運航会社の発表で明らかになっている。
南極発の探検クルーズで何が起きたのか
「船はオランダの『オーシャンワイド・エクスペディションズ社』が運航する探検型クルーズ船。2026年4月1日にアルゼンチン南端のウシュアイアを出港し、南極やサウスジョージア、セントヘレナ島などを経由しながらアフリカ方面へ向かっていた。
ところが航海中に乗客が次々と体調不良を訴え始め、発熱・呼吸困難・消化器症状を経てショック状態に陥る重症者が続出。最初に船内で死亡したオランダ人男性(70歳)に続き、その妻(69歳)が搬送先の南アフリカで、さらにドイツ人男性が船内で死亡し、計3人が命を落としたのです」(全国紙外信部記者)
5月6日時点の調査では、感染が確認された乗客からは南米に存在する「アンデス株」とみられるハンタウイルスが検出されたと報じられている。このウイルスはハンタウイルスの中で唯一「ヒトからヒトへの感染」が確認されている型として知られる。
ただその一方、WHOは5月4日時点で解析を継続中としており、アンデス型と断定されたわけではないという。「乗船前にすでに感染していた乗客が船内に持ち込み、密閉空間という特殊な環境下で濃厚接触を通じて広がった可能性がある」として調査を進めているのだ。
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特効薬もワクチンもない──致死率は最大50%
ハンタウイルスはネズミなどの齧歯類が保有するウイルスで、噛まれたり、排せつ物に触れたりすることで感染する。
厚生労働省によると、今回検出が疑われている北米・南米型(ハンタウイルス肺症候群=HPS)の潜伏期間は1週間から5週間程度(通常約2週間)で、重症化すると肺炎や呼吸困難を引き起こす。
致死率はHPSの重症例で最大50%に達するとされ(厚労省は約40〜50%と明記)、確立されたワクチンも特効薬も存在せず、対症療法が唯一の手段だ。
そのためか、感染が報じられた船はカボベルデ(アフリカ西部沖の島国)への入港を当局に拒否され、沖合に数日間停泊を余儀なくされた。
感染が疑われる3人は6日に下船してオランダへ航空搬送。残る乗員・乗客約150人を乗せた船はスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島へ向けて航行を再開したが、他の乗客と距離を保つよう指示されており、SNSでは「家に帰りたい」と涙交じりに訴える乗客の動画が拡散されている。
