
小学生のころ、友達と夢中になっていたゲームは何でしたか?
ファミコンのコントローラーを握りしめていた人もいれば、スーパーファミコンやゲームボーイ、あるいは初代プレイステーションに没頭していたという人もいるでしょう。
イギリスのオックスフォード大学(University of Oxford)の研究者は、なぜ人はレトロゲームに惹かれるのか? という疑問について調査。
その人にとっての“特別”なゲームは、どうやら「10歳のときに遊んだゲーム」になるという傾向を発見しました。
一体なぜ、10歳前後の思い出がこれほどまでに強い魅力を放つのでしょうか?
研究内容の詳細は、2026年3月26日付でアメリカ心理学会の学術誌『Psychology of Popular Media』に掲載されています。
目次
- 「ファミコンから64まで──ノスタルジーはどこで生まれる?
- 10歳で遊んだゲームこそが“究極のレトロ”だった
- なぜ10歳の頃にしたゲームが「懐かしさ」をもたらすのか?
「ファミコンから64まで──ノスタルジーはどこで生まれる?

昔、あなたが一番ワクワクしたゲームは何でしょうか。
家のテレビとケーブルをつないで家族や友達と一緒に遊んだファミコンかもしれませんし、学校の休み時間にポケットからこっそり取り出して遊んだゲームボーイかもしれません。
あるいはスーパーファミコンや初代プレイステーションの「画面がすごくきれいに見えた!」という衝撃を、いまも鮮明に覚えている人もいるでしょう。
こうした思い出は、まるで匂いのように、ふとしたきっかけで一気に蘇ってきます。
ボタンの配置やBGMのメロディ、友達と競い合ったときの興奮――ゲームはときに、人の記憶を一瞬にして「当時の空気感」へと連れ戻す不思議な力を持っています。
実は心理学やメディア研究の分野でも、音楽や映画と同じように「ビデオゲームによるノスタルジー」が人の気分を高めたり、人間関係をやわらかくしてくれるかもしれないという説がたびたび提案されてきました。
いわゆる“懐かしのドット絵”や当時の操作感を再現するレトロゲームを遊ぶことが、まるで“思い出のタイムマシン”に乗って過去の自分に会いに行くような感覚をもたらすのではないか、と。
また、ゲームは他のメディアに比べても操作や画面の臨場感が強く、体験としてより深く体にしみついている可能性が指摘されています。
そのため、どんなに新しくリアルな映像を実現したゲームが出ても、子どもの頃に触れた“思い入れのあるレトロゲーム”に魅力を感じてしまうという人は多いでしょう。
もともと10代や20代前半に聴いた音楽や観た映画を一生忘れられない、という現象は研究界隈では「リミニッセンスバンプ」と呼ばれています。
そのためゲームも強いノスタルジーを引き出すのではないかという見解があるのです。
さらに興味深いのは、「自分が現役で遊んでいた時代のゲーム機」だけを懐かしむとは限らないという点です。
たとえば、平成生まれのはずなのに初代ファミコンよりもさらに古いハードをわざわざ探し出して遊んでいる人もいたりします。
彼らが惹かれるのは、いわゆる“個人的な思い出”だけではなく、「当時に生まれていなくても感じる昔の文化や歴史への憧れ」としての“歴史的ノスタルジー”ではないかとも言われています。
しかし、こうした話題はこれまでもファンコミュニティで熱く語られてきたものの、実際のプレイデータを大量に集めて年齢やライフスタイルなどと関連づけて解析した事例はあまりありませんでした。
そこで、研究者たちは任天堂の最新ハードであるNintendo Switchで遊ばれた過去の名作ライブラリ――俗にいう“レトロコンソール”群――のプレイログを入手し、どんな世代のプレイヤーが、いつ頃のゲームを、どれくらいの頻度で楽しんでいるのかを詳細に調べることにしました。
プレイログには、どのゲームを何時間遊んだのか、携帯モードで遊んだのかテレビにつないで遊んだのかなど、けっこう細かいデータが含まれています。
さらにアンケート調査を組み合わせることで、レトロゲームへの“熱中度”と日常の幸福感や懐かしさとの関係を分析できるというわけです。
いったい、どの年代の人がどんなレトロゲーム機に夢中になり、それがどのように心に影響しているのでしょうか。
10歳で遊んだゲームこそが“究極のレトロ”だった

レトロゲームの研究をする場合、まず、どこまでがレトレゲームなのかということを定義する必要があります。
現在ここに明確な定義はありませんが、論文では、レトロゲームを「1970年代から2000年代初頭のゲーム」と暫定的に定義し、1,099人のNintendo Switch上のレトロコンソールのプレイ履歴、合計約1万3000時間を分析し、それを参加者のアンケートデータと結びつけて分析しました。
レトロコンソールとは、たとえばファミコンやスーパーファミコン、NINTENDO64といった過去の名機を仮想的に再現するSwitchのサービスのことで、参加者がどれくらいの時間・頻度で遊んでいるかをかなり正確に記録できます。
このログデータには「どのゲームを何時何分から何時何分まで遊んだか」「携帯モードか、テレビモードか」などが含まれており、研究チームはそれをもとに「いつ、どれだけ、どんなプレイ環境で」レトロゲームに熱中しているのかを詳しく調べました。
ユニークなのは、このログと同時に「ゲームをするときの満足感や日常の幸福度」を問うアンケートも行った点です。
普通、ゲーム研究では自己申告のみ(「だいたい週に○時間くらいプレイしています」といった曖昧な回答)で進められることが多いのですが、本研究ではプレイした正確な時間がデータで残っているため、「実際の遊び方」と「本人の感じているメンタル面や行動特性」とを高い精度で関連づけられます。
いわば、「何をどのくらい遊んだか」と「その後や日常生活での心の動き」を一体化して見られるわけです。
こうして集まったのが、660名分・合計およそ12,000時間もの“レトロゲームプレイ”の足跡でした。
研究チームが分析したところ、まずわかったのは「レトロゲームの比重が大きいほどプレイヤーの年齢も高めになる」という傾向。
すると30代後半〜40歳にかけて、古いゲームに費やす時間がぐっと増える傾向が見られたそうです。
さらに面白いのが、「プレイヤーが10歳前後だったころ人気だったハード」に特に戻る率が高いという点でした。
たとえば10歳のころにスーパーファミコンをしていた人々はスーパーファミコンのタイトルをよく遊んでおり、NINTENDO64世代なら64の名作に没頭している――というように、それぞれの“黄金体験”の記憶へ自然と引き寄せられているかのようでした。
一方で、生まれる前にすでに終売していたゲーム機を楽しむ人たちも一定数いて、これらは「歴史的ノスタルジー」(自分の経験にはない時代への憧れ)によるものかもしれないと示唆しています。
なお、プレイスタイルにも興味深い差が見られました。
例としては、昔から携帯ゲーム機だったゲームボーイ系のタイトルは、Switchでも携帯モードで遊ばれる率が高いという点です。
つまり、当時の持ち歩いて遊んだ感覚を再現するかのように“手元プレイ”を好む人が多いというわけです。
これは、ゲームの体験が視覚・聴覚だけでなくコントローラーの配置や持ち心地など多感覚的なノスタルジーと結びついている可能性を示しています。
そしてアンケートによる「幸福感」や「心のつながり感」との比較では、レトロゲームをよく遊ぶ人とあまり遊ばない人で、長期的な幸福度に大きな差は見られなかったとのこと。
一方で、短期的には気分が高まったり、人によっては思い出の中の友人や家族との結びつきを強く感じることもあるかもしれないといった示唆が得られています。
つまり、“レトロゲームをやれば人生が劇的にハッピーになる”というわけではないものの、特定の状況や一時的な感情の上昇には寄与しそうだ、というわけです。
なぜこの研究が革新的なのか?
従来のゲーム研究やノスタルジア研究では、「どんな世代が、いつのゲームを、どういう気持ちで遊んでいるか」を細かくデータで追跡するのは非常に難しいとされてきました。
自己申告に頼るとプレイ時間や昔の記憶は曖昧になりがちですし、どのハードをどれくらいのペースで遊んでいるかなど、外部からは把握しにくかったのです。
しかし今回のプロジェクトでは、Nintendo Switchのプレイログという客観的な“デジタル足跡”を活用し、かつ心理的な指標も同時に測ることで、レトロゲームとノスタルジーとの関係がより正確に浮き彫りになりました。
いわばゲーム研究の新しい視点を示す“リアルタイムの大規模観察”であり、メディア研究においても画期的な取り組みだといえます。

