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「昼間にしんどい人」が夜の動画沼にハマる――原因は夜だけではなかった

「昼間にしんどい人」が夜の動画沼にハマる――原因は夜だけではなかった

「昼間にしんどい人」が夜の動画沼にハマる

「昼間にしんどい人」が夜の動画沼にハマる
「昼間にしんどい人」が夜の動画沼にハマる / Credit:Canva

今回の研究では「動画→不眠」と「不眠→動画」の流れの比較で、後者のほうがかなり係数が大きかったことがわかりました。

動画を見ているから不眠になるという従来的な考えより、不眠というベースがあるから動画を見てしまうという流れのほうが優勢だということです。

では「不眠→動画」の結び目になっていた症状は、何なのでしょうか。

研究では複数の要因が調べられており、その結果、最も強く結びついていたのは「日中の気分」と「日中の体調」――つまり、寝不足の翌日に効いてくる”昼のしんどさ”でした。

具体的にはこうです。

1回目に「昼に気分が沈む」が高かった人ほど、3か月後に「動画がないと不安」「動画がないと落ち着かない」が強まっていました。また「昼に体が重い」が高かった人ほど、「動画のせいで効率が落ちた」が強まっていました。

さらに「日中の眠気」は橋渡し役――夜の問題と動画の問題をつなぐ連絡係――として働き、ぼんやりした頭を動画の刺激で補おうとしている、と研究チームは読み解いています。

では、なぜそうなるのか。

睡眠が足りないと、脳の「実行機能」が弱る、と研究チームは見ています。

実行機能とは、やりたい衝動を抑え、長い目標に意識を向けておく、脳のブレーキ役のことです。

寝不足の翌日、このブレーキがゆるむ。

すると人は、目の前の小さなご褒美に逆らえなくなる。

ダイエット中の深夜に、ポテトチップスの袋が無敵に見える――あの状態が、一日じゅうゆるく続くと思ってください。

そこへショート動画が、絶妙なものを差し出してきます。

ほとんど努力のいらない、受け身で味わえる快楽です。

気分が沈み、頭が重く、ぼんやりしている――その不快を、いちばん手早く埋められる道具として、人は動画に手を伸ばす。

研究チームはそう読み解いています。

本研究で脳を測ったわけではありませんが、過去の神経科学の研究では、ショート動画の視聴は脳の「報酬と覚醒」の回路、いわば”ご褒美センサー”と”目覚ましスイッチ”をまとめて点灯させると報告されています。

疲労や嫌な気分から、一瞬だけ解放される。

問題は、その一瞬の心地よさが「またやろう」を学習させ、次の視聴を後押ししてしまうことです。

出口のつもりが、入口だったわけです。

注目すべきは、この偏りを読む手がかりが「夜」だけでなく、とくに「昼」にあったことです。

夜更かしして眠れなかった自分が、翌日のしんどい自分にツケを残す。

そのツケを払わされた”昼の自分”が、不快に耐えかねて、ふたたび夜更かしへ傾いていく。

犯人は外(動画)に独立して存在するのではなく、関係のなかに組み込まれた”昼のあなた”の側にいた――というのが、この研究が指し示す筋書きです。

研究チームの言葉を借りれば、不眠にともなう感情のゆらぎと、ブレーキ役の鈍りこそが、ショート動画を「その場しのぎの対処法」として手放しにくくしている。

だからこそ、不眠は今後の研究で真っ先に狙うべき的だ、と論文は締めくくっています。

ただこの研究をもって「寝不足とショート動画の関係が全て明らかになった」というわけではありません。

方法上の限界もあり、影響量は小さく、「ある症状が別の症状を引き起こした」と確定したわけではありません。

またこの手法では「同じ人の中で起きた変化」と「もともと睡眠も動画も乱れやすい人がいるだけ」という個人差を切り分けられず、見かけの関連が個人差で水増しされている可能性を、著者は正直に認めています。

それでも今回の研究は重要な点を示唆しています。

私たちは「動画をやめれば眠れる」という、一方向の物語を信じてきました。

この研究が控えめに、けれど確かに書き足したのは、「眠れるようになれば、動画は手放しやすくなるかもしれない」という、もう一本の道筋です。

「動画→不眠」より「不眠→動画」の流れのほうが相対的に優勢だった、というのがこの研究の中心的な発見だからです。

言ってみれば、まず手をつけるべきは、夜中のあなたの指ではなく、その指を動かしている”昼のしんどさ”のほうだったのかもしれません。

研究チームは解決方法として3つの方法を提示しています。

ひとつめは、不眠そのものへの認知行動療法(CBT-I)です。

これは、睡眠についての正しい知識、寝つきをよくする行動の工夫、体をほぐすリラックス法、そして就寝前の習慣の組み直しを、ひとつのパッケージにした治療法です。

3つのうち論文が最初に置き、唯一「不眠治療の第一選択」という強い言葉と、過去の大規模な検証の裏づけを添えているのが、この方法でした。

ふたつめは、自然とふれあうことです。

緑のある環境は、不安や、同じ考えが頭のなかをぐるぐる回り続ける状態をやわらげ、頭の作業スペースを広げると報告されています。

これはまさに、この研究が”結び目”として名指しした「昼のしんどさ」――気分の落ち込みや頭の重さ――に、関係しうる、と研究チームは見ています。

みっつめは、対面の人付き合いを増やすことです。

仲間と体を動かしたり、家族と顔を合わせたりして、現実の人とのつながりを太くする。

孤独や対人不安がやわらげば、その慰めを動画に求める必要そのものが、減っていくからです。

狙うべきは「動画を取り上げること」ではなく、「不眠の側、とりわけ翌日の昼の重さを軽くすること」だというわけです。

昼の症状が重要な結び目として浮かんだからこそ見えてきた、実践的な方法と言えます。

元論文

Exploring longitudinal relationships between problematic short-form video use and insomnia symptoms: A cross-lagged panel network analysis
https://doi.org/10.1016/j.paid.2025.113625

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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