国際線に活路を広げるANA
今回のANAのマイレージ改訂が経営戦略上、よかったのか悪かったのか、その答えをにわかに見つけることは難しい。ただ、その改訂の背景に日本の航空需要の縮小、そして日本特有の事情として新幹線との厳しい競争があることは確かだろう。
事実、私が拠点にする金沢を例にとれば、羽田〜小松空港間の運賃は新幹線との競合のため、かなり安く抑えられてきた。
端的に言えば、航空会社にとって国内線は儲からない社会貢献ビジネスの様相を呈しているのだ。そのため減便も相次ぎ、ANAは羽田〜小松線で朝晩の2往復しか飛ばしていない(JALは一日6往復)。
では、ANAはどこで客を見つけようとしているのか? 察しのよい人であればインバウンドと答えるだろう。
私のような昭和世代なら、「国際線のJAL、国内線のANA」という棲み分けのイメージがいまだに根強いはずだ。しかし、そうした往年のイメージはすっかりくつがえり、今や国際線でもANAはその便数、就航都市の多さでJALを圧倒している。
またJALの加盟するワンワールドアライアンスは2026年5月現在、16社しかない。一方、ANAの属するスターアライアンスの加盟航空会社は26社と差が大きい。これはANAがその規模を利用して同一アライアンス間の乗り継ぎ需要をより多く取り込めるのに対し、JALにとってはそれが難しいという状況を示している。
たとえば、カナダのスターアライアンス上級会員がバンクーバーからインドネシアのジャカルタに行こうとした場合、同じくスターアライアンスに加盟する地元エアカナダのサイトから通し(ひとつの航空券番号)で成田乗り換えのチケットを買えば、荷物の許容量は終着地まで優待されるし、もちろん乗り継ぎの成田ではANAのラウンジも使える。
しかも、成田からANAに乗っても、そのマイレージを日頃利用するエアカナダに貯められる。
このように、アライアンスがもたらす特典の影響力は大きい。航空業界では前述の2グループに加え、デルタ航空とエールフランスが主力となるスカイチームを含めた世界3大アライアンスがしのぎを削っている。
その中でANAは最大規模のスターアライアンスのメンバーであるのに対し、JALは残念ながら3大グループでもっとも輸送力で劣るワンワールドに所属しており、ANAの後塵を拝している格好だ。
この国際線におけるANA、JALの格差はコロナ後、さらに拡大することになる。ANAに天がさらに味方したかのように、長年スターアライアンス内の乗り継ぎ需要の競合相手だった韓国のアシアナ航空が、経営不振のためにスカイチーム陣営の一員である大韓航空に吸収されてしまったのだ。
このライバルの消失により、これまでアシアナと奪い合っていたトランジット客が、ANAに集中するのではないかと期待されている。
ANAとJALは棲み分けへ
このような航空業界の変化を考えると、ANAが国際線に力を傾注し、その結果として国内線が寂しくなっていくのも経営判断としては合理的であろう。
インバウンド利用の富裕層を優遇し、国内出張族の切り捨てにつながりかねない今回のマイレージ改訂はそうした経営判断のワンシーンなのかもしれない。
また、前述の小松空港の朝夕2往復体制などはその最たるもので、これは国際線の乗り継ぎを前提としたダイヤ編成と言ってもよい。
他方、JALがいまだに小松航空で一日6便体制を維持するなど、国内客を切れずにいる状況にも得心がいく。国際線需要でANAに競り負けている以上、国内線で顧客を確保せざるを得ないからだ。そう考えると、ANAとJALはライバル関係にあるのではなく、棲み分けて生き残る状況が生まれつつあると言える。
今回のマイレージ改訂で上級会員資格を失い、ANAラウンジを去らざるを得なくなるサラリーマン層のなかには寂寞たる思いを抱える方も多いであろう。
ただ、嘆いてみたところで日本国内の航空需要の縮小傾向は変わらず、個人でできることは限られている。20年以上快適なANAラウンジを使ってきた私にとっても、その記憶が「一炊の夢」となる日は近い。
文/井出明

