
岩手大学(Iwate University)と名古屋大学(Nagoya University)の共同研究によって、猫にマタタビとキャットニップを同時に提示すると、海外由来の9品種を含む22匹の純血種の猫のうち15匹がマタタビにだけゴロンと擦り付け反応を見せ、キャットニップだけを選んだ猫はわずか3匹だったことが分かりました。
屋外でも、6匹の地域猫のうち5匹が10晩の観察で計21回、いずれもマタタビに対して擦り付け・転がり反応を見せていました。
さらに驚くことに、化学分析を行うと、猫を反応させる成分(マタタビやキャットニップに含まれる魔法成分)は、キャットニップのほうがマタタビより約170倍も濃かったのです。
つまり”火力”ではキャットニップが圧倒的に勝っていたのに、現場ではほとんど見向きもされなかったわけです。
いったいなぜ、化学的にこんなに強いはずのキャットニップは、こんなにも猫に選ばれなかったのでしょうか?
研究内容の詳細は2026年5月12日に化学生態学の国際学術誌『Journal of Chemical Ecology』にて発表されました。
目次
- そもそも、なぜ猫はあの2つの植物に夢中になるのか?
- 猫はキャットニップ派よりマタタビ派が圧倒的
- 有効成分が170倍も多いキャットニップがマタタビに負けた
- 猫はマタタビで進化したのか?
そもそも、なぜ猫はあの2つの植物に夢中になるのか?

高級そうなキャットニップを買ってきたのに、うちの猫はちょっと匂いを嗅いだだけでフイッとどこかへ行ってしまった――。
そんな経験、ありませんか?
ネットでもショップでも「猫が夢中になる魔法のハーブ」と言われているのに、実際にあげてみると反応はイマイチ。
それでいて、ふと与えた安売りのマタタビには、体を擦りつけて大はしゃぎ……
「うちの子、変わってるのかな?」と首をかしげた飼い主さんは、世界中にきっとたくさんいるはずです。
しかし新たな研究では、そこに根本的な理由が潜んでいる可能性がみえてきました。
植物に詳しくない人にとって、キャットニップはマタタビの英語名のように思えるかもしれませんが、実は2つは異なる植物です。
マタタビは東アジア原産のつる性植物
キャットニップは欧米でおなじみ、シソ科のハーブ
この2つはどちらも葉や茎に、空気中にフワッと漂う特殊な香り成分を含んでおり、それが猫の鼻にスイッチを入れていると考えられています。
猫がこの匂いを嗅ぐと、顔をこすりつけてゴロンと身をよじる、あの自己塗布行動(植物成分を自分の体に塗りつける行動)が引き出されます。
実はこの行動、ただ気持ちよくなっているだけではないことが、宮崎雅雄教授ら同じ研究チームの過去の研究で分かっています。
猫がこれらの成分を体にこすりつけると、なんと蚊が寄ってこなくなるのです。
つまりあの恍惚ダンスは、猫の祖先が獲得した「自分専用の天然虫除けスプレーを塗る防虫行動」でもあったというわけです。
猫はただ気持ちよくなっているのではなく、薬草を活用する達人だったのかもしれませんね。
ここまでで分かっているのは、両者とも猫を反応させる薬草らしい、ということ。
この2つを”同じ条件で直接比べた研究”は、これまでほとんどありませんでした。
理由はシンプルで、両者は地球の反対側に生えていて、自然界では同じ場所で出会わないからです。
キャットニップは欧米の庭園ハーブ、マタタビは東アジアの山林の植物。
野生の猫が両方に同時に出会う場面は、地球上どこを探してもまずありません。
だからこそ「猫はどっちを選ぶの?」という素朴な疑問は、長らく答え合わせができないままだったのです。
そこで研究チームは、ある実験を計画します。
「猫自身に近づくか無視するかを決めさせる」自由選択で、両者をガチンコ対決させてみよることにしました。
猫はキャットニップ派よりマタタビ派が圧倒的

研究の舞台は、岩手県盛岡市の民家の庭でした。
研究チームは、あらかじめ庭で栽培していたキャットニップのすぐ近くに、採れたてのマタタビの枝葉をポンと置きます。
庭は高さ1.2mの金網フェンスで囲まれていますが、猫はくぐったり乗り越えたりして自由に出入りできる――まさに「猫の意思しだい」の条件です。
夜行性の猫の行動をとらえるため、地面に暗視カメラを設置。
夕方6時から翌朝5時まで、6月から9月にかけて雨の日を除き、延べ22晩にわたる観察が行われました(うちマタタビの枝葉を置く最初の実験は10晩)。
カメラに映ったのは、外見で識別できる6匹の地域猫。
そのうち5匹が、合計21回もの「ゴロンゴロン擦り付け反応」を見せました。
しかし、そのターゲットは――例外なく、すべてマタタビだったのです。
すぐ隣に元気に生えているはずのキャットニップにも、収穫したばかりのキャットニップの葉にも、擦り付け反応を見せた猫は一頭もいませんでした。
「植物の見た目で判断しているだけかも?」と研究チームは考え、次の実験を用意します。
両方の植物から成分だけを取り出した抽出液(葉をすり潰して溶媒で成分を抽出した液体)を、1つのレンガの左右両面に塗り分けて庭に置いたところ、結果はやはり同じ傾向でした。
マタタビ側にだけ反応する猫はいても、キャットニップ側にだけ反応する猫は1匹もいませんでした。
ただし、ここで一つ疑問が残ります。
「これは、日本の地域猫がたまたまマタタビに慣れているせいでは?」
研究チームはまったく同じ疑問を抱き、追加実験として、日本国内の2つの施設で飼育されている純血種の猫22匹を集めました。
アメリカ・イギリス・ロシア・イラン由来の9品種――アメリカンショートヘア、エキゾチックショートヘア、マンチカン、スコティッシュフォールド、メインクーン、ミヌエット、ペルシャ、ロシアンブルー、ベンガル――かなり豪華なラインナップです。
しかも最大のポイントは、これら22匹が飼育記録の上では本研究までマタタビにもキャットニップにも与えられたことのない個体ばかりだったこと。
経験による影響をできるだけ抑えた、まっさらに近い状態でのテストでした。
普段過ごしているリラックスした部屋の中に、両方の抽出液を染み込ませたろ紙を15cm離して同時に置きます。
猫たちは近づくも嗅ぐも無視するも完全に自由。
結果は――
マタタビにだけ反応 15匹
キャットニップにだけ反応 3匹
両方に反応 1匹
匂いは嗅いだがゴロンとはしない 3匹
統計的にも、マタタビへの反応がキャットニップに対して有意に多いという結果になりました。
「マタタビ優位」は日本の地域猫だけに限られた現象ではなく、海外由来の品種を含むさまざまな猫にも見られる傾向である可能性が、ここで初めて科学的に示されたわけです。
しかし、本当に驚くべきはここからでした。
注目すべきは、化学分析の結果です。

