会話の消えた家
休日の朝、私は一人でパンこね台に向かいました。けれど、生地を丸める手元がぎこちなくて、半分も終わらないうちに片付けることに。次の週末は、何も作りませんでした。
それと前後して、夫の様子が変わっていきました。早く出かけて遅く帰り、夕食の席でもスマホを触っている時間が増えました。話しかけても返事は短く、こちらを見ようともしません。私は、義母の言葉をきっかけに夫が本音を見せ始めただけなのだろうかと考えるようになりました。同じ家にいるはずなのに、別々の部屋で過ごす夜が増え、この関係をどう続けていけばいいのか、わからなくなっていきました。
そして...
数週間後の早朝、物音で目が覚めました。時計はまだ5時半です。キッチンに行くと、夫がエプロンをつけて、生地をこねていました。
私の顔を見るなり、夫は照れたように口を開きました。「美味しくないんだ、これ。やっぱり二人で作ったやつのほうがいい」。私は思わず「気持ち悪いって言われて、無理させてたのかと思って」と漏らしました。夫は手を止めて、こちらをまっすぐに見ました。「俺は好きでやってた。母さんの言葉に振り回されて、何も言えなかったのは俺の方だ」。
その朝、私たちは久しぶりに二人でパンを焼きました。義母の言葉は、もう私たちを縛れません。失いかけたものを取り戻したのは、私たちが大事にしてきたその時間そのものでした。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
