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アルツハイマー病予防に有効な運動量はどのくらい? 最新研究が示した、誰もがもっとも効率よく鍛えられる“スーパー筋肉”の正体

アルツハイマー病予防に有効な運動量はどのくらい? 最新研究が示した、誰もがもっとも効率よく鍛えられる“スーパー筋肉”の正体

英国オックスフォード大学での研究を経て、糖と脳の研究分野で国際的に評価されている医師の下村健寿氏。そんな下村氏は、認知症やアルツハイマー病予防の“特効薬”として「運動」の重要性を挙げる。なかでも近年の研究では、ある筋肉を意識して歩くことで、その効果がさらに高まる可能性が見えてきたという。アルツハイマー病予防のカギを握る“スーパー筋肉”の正体とは。

 

『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』より一部抜粋、再構成してお届けする。

あなたは「3日半」、走り続けられますか?

アルツハイマー病や認知症を予防するために、運動が特効薬となります。

ここで気になるのが、「では、どれくらいの強度の運動をすればいいのか?」という点です。

じつは単純に筋肉を使うだけでも、(実感しにくいかもしれませんが)すぐに効果が表れて、糖のドアが増えていきます。

それに内臓脂肪は、皮下脂肪に比べて落としやすいという特徴があります。

では、内臓脂肪をどれくらい減らせばいいのか、そのためにはどのくらいの運動が必要なのか、少し計算してみましょう。

内臓脂肪の蓄積量は、メタボリックシンドローム(メタボ)の主要な診断基準の一つです。CTスキャンで見た腹部断面の内臓脂肪面積が100平方センチメートル以上であればメタボと診断されます。

100平方センチメートルの脂肪をざっくりと重さに換算すると、およそ3キログラムになります。

脂肪を1キロ燃焼させるには、約7200キロカロリーのエネルギーを消費する必要があります。

ということは3キロの脂肪を燃やすには、単純計算で2万1600キロカロリーを消費しなければなりません。

ジョギングで消費できるエネルギーが1時間あたり約500キロカロリーだとすると、「2万1600÷500=約43時間」となります。

とはいえジョギング中は、脂肪だけでなく糖質もエネルギーとして使われます。

脂肪と糖質の消費比率を1:1と仮定すると、1時間あたりにエネルギーとして消費される脂肪は、消費カロリー全体の半分である250キロカロリーになります。

ということは、メタボ認定されてしまう3キロの内臓脂肪を消費するのに必要なジョギング時間は、ざっくり計算すると86時間にもなります。

つまり何も食べずに約3日半走り続ければ、メタボと診断されるほどの内臓脂肪はなくなる計算です。

しかし、これには命の危険さえ伴います。ですから、急激な運動で内臓脂肪を劇的に落とすことは現実的ではありません。

考えてみれば、当たり前のことです。

もしあなたが少し太り気味だと感じているなら、それは短期間ではなく、10年以上の長い時間をかけて現在の体形になったはずです。

わずかな脂肪の蓄積が長期間続き、「塵も積もれば山」となって内臓脂肪として蓄積したのですから、急激に減るはずがありません。

ということで、短期間の厳しい運動によってではなく、継続的な運動によって時間をかけて内臓脂肪を減らしていく必要があります。

そのためには最低でも3ヶ月は運動を続ける必要があることもわかっています。

「3ヶ月間も運動するなんて、めんどくさい……」と思ったでしょうか。ですが、この期間に努力して運動を続けると、体質そのものが変わっていきます。

筋肉が糖だけでなく、脂肪をより多くエネルギー源として使うようになる、つまり内臓脂肪が燃えやすい「痩せやすい体質」になります。

その後の長い人生にも良い影響を与えると考えれば、3ヶ月間の努力も安いものと思えるのではないでしょうか。

運動をすると「海馬」が甦る理由

脳細胞への悪影響を止める、いわば「守り」の意味での運動の効果をお伝えしてきました。ですが運動には「攻め」の効果もあります。減ってしまった脳神経を増やすことにもつながるのです。

本章の冒頭で紹介したロンドンのタクシー運転手たちの話を思い出してください。彼らのように、人間の脳は海馬でのみ、新たな神経細胞が発生するとわかっています。

この働きを促してくれる物質が「脳由来神経栄養因子(BDNF)」です。

BDNFは「肥料」のようなものです。

新たな神経細胞になる「タネ」が埋まっている肥沃な土壌である海馬に、BDNFという肥料をたっぷりとかけることで、新たな神経細胞が芽生えて成長していきます。

これが、認知症になりにくい脳をつくることにもつながっています。

さらにBDNFには細胞の新生だけでなく、脳の中で生き残っている神経細胞同士の「つながり(シナプス)」を増やしたり、そのつながりを強化したりする作用もあります。

残っている神経細胞同士の情報伝達の効率を高める「チューンアップ」も行っているのです。先述のとおり、神経細胞の数が減っていても情報伝達の効率が飛躍的に上がれば、脳全体のパフォーマンスは向上します。

この奇跡のような役割を果たすBDNFを作るために必要なのが、「運動」です。

近年の研究から、運動をすると筋肉から「ミオカイン」と呼ばれる一連の生理活性物質が分泌されることが明らかになりました。

ミオカインは脂肪や肝臓、膵臓など様々な臓器に作用して代謝を調節したり、全身の炎症を抑制したりと、体にとって非常に良い効果をもたらすことがわかっています。

このミオカインが脳にも直接作用し、脳の中でBDNFの発現を促すのです。

運動は、脳の容量低下に対抗するためだけでなく、新しい脳細胞を作る上でも非常に効果的だということです。

ひとつの事例として、私の家系の話をしましょう。

私の家系は皆、長寿なのですが、認知症を発症する人も少なくありません。むしろ認知症家系と言ってもいいかもしれません。

そして皆、戦中から戦後にかけての食糧難の時代に幼少期を過ごしたこともあって、認知症に悩む親戚の多くは体力があまりなく、運動が苦手でした。

しかし1人だけ例外がいました。叔父です。叔父だけはスポーツ好きで、若い頃からスキーや水泳に熱心に取り組んでいました。

叔父は身体的には病気になりましたが、認知症に侵されることはなく、頭だけは最晩年まで冴えていました。

因果関係を証明するのは難しいのですが、運動が認知症対策に有効であることを示すひとつの例だと信じています。

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