「元気で自立した生活を送っているのに、高齢の単身者というだけで住まいを借りられない」という女性たちが今、増えている。介護施設に入るには早すぎるが、一人暮らしの孤独や万一への不安は拭いきれない。こうした「住まいの空白地帯」にある彼女たちの受け皿として、今、ゆるやかな繋がりの中で共に暮らすシェアハウスという選択肢が注目を集めている。
大学教授である葛西リサ氏の書籍『単身高齢者のリアル――老後ひとりの住宅問題』より一部を抜粋・再構成し、高齢者のシェアハウスのリアルを追う。
60代以上シングル女性のためのシェアハウス
東京都西東京市に、60歳以上の単身女性を対象としたシニアライフ田無がある。
ハウスを運営する株式会社イチイは、一般賃貸事業のほかに、住宅市場から排除されがちな高齢者や外国人に特化したサービスを全国に先駆けて展開したことでも有名である。
このハウスを開設した同社代表の荻野政男氏は「中高齢期になると賃貸住宅は借りにくくなり、かといって施設入所も適さない層がいる。自由な環境でゆるやかに集住し生活できる場をつくりたかった」と語る。
相談ニーズの分析から、ターゲットは高齢単身女性に設定した。
現在のアクティブシニア層は、婚姻時の年齢が妻の方が低い傾向にあること、女性の平均寿命が長いことなどから、夫を看取ったのち、単身での生活に不安を覚え、住まいの相談に訪れるケースが多いのだという。
地下1階、地上3階建ての自社物件を改修した建物に、2025年9月現在60〜70代の4人の女性がともに暮らす。家賃は4万8000円、水道光熱費と管理費込みで7万円弱と、シニア向けにしては低価格に設定されている。
入居条件は60歳以上の単身女性であること、家賃が払えること、エレベーター未設置のため自力で階段の上り下りができることの3つである。
保証人は不要だが、万一に備えて身元引受人は必要とする。要介護状態での入居はできないが、入居後に要介護となった場合は可能な限り対応するというのが同社の方針である。
「階段の上り下りができる間はずっといてください」
ある60代の入居者は、コロナ禍に収入が減ったことで転居の必要に迫られた。
家賃の安い住宅に住み替えようと地元の不動産会社に問い合わせをしたが、「その年齢では仲介できる物件がない」と断られた。その後も、複数の不動産会社に足を運んだが、対応はどこも同じだった。
いよいよ切羽詰まり、単身者向けのシェアハウスならと期待を込めたが、「50歳前半までしか受け入れていない」とにべも無かった。
不動産会社からは、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)や住宅型の有料老人ホームを勧められたが、いずれも高額すぎて手が出なかった。
なによりまだ介護が不要で、「施設」という言葉にも抵抗を感じた自分の力で住宅に住み続けるにはどうしたらいいのか。郊外や地方へいけば家賃は安く、入居できる物件もあるかもしれないが、知らない土地で暮らしていけるか不安だった。
「自分で言うのもなんだけど、最近までちゃんと働いていて、足腰もしっかりして健康体なのに、なんで借りられないのか。なんで私が、という思いしかなかった」と、しばし現実が受け入れられなかった。
いよいよこのままでは行き場がないと思ったとき、ネット上で「自立した生活ができる60歳以上の女性対象」というフレーズを偶然目にし、すぐさま入居の申し込みを行った。
面談時、担当者からの「階段の上り下りができる間はずっといてください。年齢制限はありません」という言葉が入居の決め手となった。
シェアハウスでの暮らしについては、「やっぱり家に帰ったときに電気がついているっていうのはいいですよね。ただいまとか、おかえりとか。一人だと言わないじゃないですか。それに一人暮らしだと、鍵一つ失くしても大事ですから」と満足そうに話した。
食事の準備は各自で行い、共有スペースの掃除やごみ捨て、花の水やりなど、日々のルーティンは、当番制で平等に分担する。管理会社によれば、入居者同士のつかず離れずの関係が楽で、ゆるやかな集住が孤立を解消してくれると入居者からの評価は高い。

