どこに行ってもスマホを向ける私
旅行先で、カフェで、夜景の見える場所で。私はどこに行ってもスマホを構えていました。海辺の波打ち際、駅前のイルミネーション、お店の小皿に盛られた料理、犬と歩いた帰り道。
忙しい平日を乗り越えて訪れる週末の景色は、何でもないように見えて、私には宝物のようでした。彼に「ね、ちょっとだけ撮ってもいい?」と聞いては、何枚かシャッターを切る。それが私の習慣だったのです。
最初の頃、彼は「またか」と言いつつ笑って待ってくれていました。けれど少しずつ、その顔から笑いが消えていったのです。
「目の前を楽しめばいいのに」
ある夜、2人で出かけたレストランでのことです。窓越しの夜景がきれいで、私はいつものようにスマホを向けました。
彼がため息混じりに「目の前を楽しめばいいのに」とつぶやいたのです。続けて「写真ばっか撮ってないでさ」とも。「スマホばかり見て」というひとことは、ここ数カ月、彼から何度も聞いていました。
私は「うん、ごめん」と返して、スマホをカバンにしまいました。彼の言うことは正論です。隣にいる人より画面を見ているのは確かに失礼な話でした。
ただ、写真を撮ってきた理由は彼に伝わっていない。その思いだけが消えないまま、家に帰ったのです。
