日本独自の字幕の歴史
池ノ辺 この「パチ」の技術っていうのは日本だけなんでしょうか。日本では字幕スーパーの映画が多いですけど、他の国は吹き替えであることが多いって聞きます。今回の作品もプリントフィルムで公開するところは字幕無しでしょうし。そもそも映画で字幕が発達したところって日本以外にあるのかな。
斎藤 インドは字幕があると聞いたことがあります。あの国は多言語だから、その分字幕の分量も多い。
池ノ辺 日本で字幕が発達したのって、俳優さんの声も含めて演技だという意識があるかもしれないですね。吹き替えになるとどうしても印象が違ってしまう。あと、字幕の話でいうと昔は字幕は縦に入っていましたよね。それも対応していたんですか。
斎藤 普通にやっていました。
仁村 今回もラストのクレジットが流れる時には縦に入っています。
池ノ辺 いつから下になったのかなと思って。
斎藤 昔の劇場で今ほど傾斜がきちんとついていなかった時には、下に字幕があると前の人の頭で隠れてしまうということがあったようです。劇場の傾斜が急になったことで、下に入れる方がいいとなったのかもしれないですね。横書きの方が読みやすいし文字数も入りますから。
仁村 数字とかカタカナ文字も横の方が入れやすいし読みやすいですよね。
池ノ辺 私は、VHSが普及した時に、下に横組で入っていたので、その辺りの時期が転換点だったんじゃないかとみていました。
機械の命の続くかぎり
池ノ辺 フィルムのお仕事は1年に一度あるかないかということでしたけど、ほかにはどんな作品を手掛けたんですか。
仁村 去年は1本もなくて、その前が『憐れみの3章』(2024)、そして『オッペンハイマー』(2024) ですね。
池ノ辺 このあとは何か予定はあるんですか。
斎藤 具体的なお話は無いですが、たまに「まだ機械は動きますか」というお問い合わせをいただくことがあります。
池ノ辺 確かに機械が動かなければ、どうしようもないですもんね。
仁村 本当にそうです。毎回きちんと動くかどうかヒヤヒヤです。とにかく機械が壊れないでほしいと祈るばかりです。
池ノ辺 海外で日本語字幕を請け負っている会社ってないんですか。
斎藤 ないことはないらしいんですけど、やっぱり日本語の字幕って独特な難しさがあるみたいで、それこそ縦字幕やルビだったり、歌詞字幕で使用する「千鳥」っていう独特のバランスの字配りをしたりとか。
斎藤 でも、劇場さんでも頑張ってフィルムの映写機を残されているところがあると聞くと、我々もそこに提供できるものを作っていかないといけない、メンテナスも含めて少しでも長く機械を永らえさせていかなければ、と思っています。
池ノ辺 最近は若い監督がフィルムで撮りたがる傾向もありますよね。だから、フィルムの映画ってなくならない気がします。
斎藤 でも上映できるところは本当に少なくなっていますよね。
池ノ辺 今回は、109シネマズプレミアム新宿、立川シネマシティ、そして広島市の八丁座の3劇場でフィルムでの上映があるんですよね。
斎藤 映写機が残っていて、きちんとメンテナンスもされているというのが素晴らしいですよね。映写技師って昔は映写技術者免許という資格と危険物取扱者の資格が必要でしたよね。
池ノ辺 フィルムが可燃性でしたからね。お二人は、長年この業界で、フィルムとデジタルと両方の仕事を手掛けてこられたわけですが、どちらの作業が好きとかってありますか。
仁村 作業のやりやすさではデジタルですね。今は本当にパソコン1台あればどこでもできてしまうので。フィルムはスポットを取ったりテキストを入れるだけでも何台もの機械の電源を入れて、というところから始める必要があります。
早川 確かにデジタルは進化してるだけあって作業性はすごく良くなっています。間違いも直せるしその修正にもコストがかからない。そこはすごくいいと思います。一方、フィルムはフィルムで、その一発勝負的なところがいいんじゃないかなと思います。実際こちらも、ミスしないように慎重に、気持ち的には恐る恐るといった感じで作業を進めているので、作業が無事に終わると「本当に良かったね」という気持ちになります。
池ノ辺 比べるものではないのかもしれないですが、フィルムとデジタルと、劇場で観た感じはどうですか。
仁村 私もなかなか観る機会がないんですが、依頼が来たときに試写で観ると、確かにデジタルとは違う、というか別物だと感じますね。
早川 DCP作業は他社さんでされて、35ミリは弊社でやらせていただくっていうパターンが多いので、実際今比較するとなると劇場に行って、DCPを観てということになります。これは私だけの感じ方かもしれないんですが、カメラがパンした時に、デジタルだと何かすごく忙しない感じがするんです。35ミリだとまだこう画が残っていて緩やかな感じがあります。奥行き感とか色味とかはもちろんですが、そういった部分にも「やっぱり35ミリってすごいんだ」と感じさせるものはあります。そういう貴重な機会をいただいて字幕を入れさせていただいているので、ぜひ改めて出来上がったものを劇場の大きなスクリーンで観たいですね。
