「残されるのが怖い」と言った彼女
付き合いはじめてまもないころ、彼女が初めて手料理をふるまってくれたことがありました。テーブルに料理を並べながら、彼女はどこか不安そうでした。そして、ぽつりと「残されるのが怖い」とこぼしたのです。
くわしくは語りませんでしたが、以前に作った料理を残されて、つらい思いをしたことがあるようでした。その横顔が忘れられなくて、僕は心に決めました。彼女のごはんだけは、最後のひと口まで必ず食べ切ろう、と。
空になった皿を残す理由
それからというもの、僕は彼女のごはんを食べ終えるたびに、空になったお皿を写真に撮るようになりました。ひと口も残さず食べた証を、自分なりに記録しておきたかったのです。いつか彼女に見せて、ちゃんとぜんぶ食べてきたよと伝えられたらと思っていました。
食べ終わると、僕はいつも「全部食べたよ」と口にします。けれど料理そのものをほめる言葉は、照れくさくて口にできずにいました。だから皿を空にすることと、その写真が、僕にとっての精いっぱいの「おいしかった」だったのです。
