用意していた言葉
彼女と付き合って三年になります。記念日に、僕はプロポーズをするつもりでいました。少し背伸びをして予約したお店で、指輪を渡す。何度も頭の中で、その場面を思い描いていたのです。ところが当日が近づくにつれて、迷いが大きくなっていきました。立派なお店、かしこまった空気、用意したセリフ。そのどれもが、なんだか自分たちらしくない気がしてきたのです。彼女が本当に喜んでくれるのは、こういう演出なのだろうか。考えるほどに、自信がなくなっていきました。
あの場所を選んだ理由
待ち合わせの直前、僕は思い切って予約をキャンセルしました。そして彼女に、「ごめん、お店、近所のカフェに変えてもいい?」とだけメッセージを送ったのです。
返ってきたのは、「うん、いいよ」という短い一言でした。変更先のカフェは、付き合う前、僕たちが何度も通った場所です。
気取らないあの空間でなら、自分の言葉でちゃんと伝えられる気がしました。けれど席に着くと、いざ切り出そうとするたびに緊張で言葉に詰まってしまいます。落ち着かずに何度もスマホへ目を落とし、視線もあちこちに泳いでしまいました。それでもどうにか意を決して、僕は「ここ、覚えてる?」と口にします。彼女は「うん、付き合う前によく来てたね」と笑ってくれました。今だ、と思いました。
