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「雨乞い」の後に本当に雨が降りやすくなっていた理由が判明――祈りは効かない。だが当たる

「雨乞い」の後に本当に雨が降りやすくなっていた理由が判明――祈りは効かない。だが当たる

賢い司祭は、一人もいらなかった

賢い司祭は、一人もいらなかった
賢い司祭は、一人もいらなかった / 雨が降ってから時間がたつほどまた雨が降りやすくなる地域が赤で示されています/Credit: Espín-Sánchez et al., Quarterly Journal of Economics (2026)

ここで多くの人は、こう考えるはずです。

「長い歴史の中で、誰かが気づいたのだろう」と。

何十年も空を見ていれば、「乾きが長引いたあとには雨が来やすい」と勘づく司祭がいてもおかしくありません。

その勘の良い司祭が、後輩に教える。教えられた後輩が、また後輩に教える。

そうやって雨乞いのマニュアルは磨かれていった——そう考えるのが自然です。

ところが研究チームは、モデル上はそんな賢者は一人もいなくていい、と言います。

考え方の骨組みは、生き物の進化とよく似ています。

生き物は、自分の体を設計しません。少しずつ違う個体が生まれ、たまたま環境に合っていた個体が多く子を残し、その形が次の世代に受け継がれる。

これを繰り返すだけで、まるで誰かが設計したかのように、環境にぴったり合った形ができあがります。

論文が雨乞いに持ち込んだのは、これとよく似た理屈でした。

世代ごとに、新しい宗教指導者が現れます。

このモデルでは、彼らは戦略家ではありません。天気の知識もありません。

ただ、それぞれバラバラのタイミングで祈るだけです。

ところが、この「バラバラ」によって、人々の反応がまるで変わってきます。

早すぎる祈りはそもそも外れやすいですし、遅すぎる祈りは雨に先を越されてしまいます。

ですがその中間だと、雨への需要が高まり、しかも自然の側でも雨の確率が上がっています。

このタイミングで祈った指導者は、「祈ったら雨が降った」という経験を生みやすく、支持を集めやすくなります。

すると、支持を多く集めた指導者だけが生き残り、集められなかった指導者は次の世代で取って代わられていきます。

残った祈り方が、その世代の「やり方」になります。

次の世代でも、また同じことが起こります。

誰も改良していません。ただ、支持されなかった祈り方が消えていくだけです。

論文のシミュレーションでは、このような選別が世代をまたぐと、残る祈りの開始時期が最適点の周りに集まっていく様子が示されています。

モデルの中で50世代を回すと、祈りの開始時期の分布がかなり狭くなる、という図も示されています。

誰も詳しい知識を持たずとも、雨乞いのマニュアルは、ちょうどいいタイミングへと磨かれていくのです。

これはある意味で「誰の頭の中にもない知恵」と言えるものです。

もちろん、長い歴史の中には、本当に賢者と言える司祭がいたかもしれません。

しかしどちらの道をたどったにせよ、祈りが雨の近い時期に寄っていくという結論は変わりません。

分が悪い賭けであるはずの雨乞いが生き残ったのは、当たりやすい時期がある地域で儀礼が支持され、雨を予測しやすい始めどきが文化の中に残ったからだ——研究チームは、そう考えています。

そして、あなたの雨乞い

そして、あなたの雨乞い
そして、あなたの雨乞い / Credit:Canva

この話は、雨で終わりません。

論文の著者であるエスピン=サンチェス氏は、同じ仕組みが、雨以外のことにも当てはまるかもしれない、と考えています。

たとえば、病気です。

風邪を引いたときのことを思い出してみます。

風邪は、たいてい一週間ほどで治ります。

では、明日治る確率は、いつでも同じでしょうか。

違います。

引きはじめの1日目に「明日には治っているだろうか」と考えても、可能性は低いでしょう。

ところが5日目、6日目となると、話が変わります。

もう治りかけです。明日治る確率は、ぐんと上がっています。

——これは、どこかで見た形です。

そう、ムルシアの雨と同じです。

風邪の治り方にも、あの「雨のクセ」とそっくりのクセがあるのです。

腰痛も、落ち込んだ気分も、治るものはどれも同じです。

そして人は、つらさがピークに達したとき、何かをします。

サプリを飲む。整体に行く。験を担ぐ。

1日目には、何もしませんが5日目、6日目になって、さすがに耐えかねたときに、ようやく何かをするのです。

そして、その翌日、あるいは翌々日に良くなったとしたら、「あれが効いた」と思い込んでしまいます。

エスピン=サンチェス氏はこの点について「十分に複雑であるため、自然に治るとは到底思えない。しかし十分に単純であるため、何かをすれば病気を治しているように見える」と述べています。

放っておいても治ると思えるほど単純けれど、何をしても治らないほど深刻でもない。

その中間にある困りごとには、雨乞いと同じ構造が生まれるという意味です。

もしかしたら、あなたの中にもそういった「雨乞い」がたくさん存在するのかもしれません。

元論文

Praying for Rain
https://doi.org/10.1093/qje/qjag026

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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