結果として生まれた「ルールのない独占市場」
独占的インフラには本来、2つの選択肢しかない。競争市場を創出するための積極的な規制緩和か、独占状態を前提とした適切な監視と規制の導入か、だ。厚労省はそのいずれも選ばなかった。
新規参入の障壁を取り除く努力もせず、かといって独占事業者への監視網も構築しなかった。その結果として生まれたのが、「ルールのない独占市場」という最悪の状態である。
2020年に6万円を下回っていた東京博善の火葬料金は、2024年6月には基本料金が9万円に達した。4年間で約52%の値上げだ。上位プランを利用すれば14万円を超えるケースもある。高い市場シェアの下で料金が上昇しており、競争が十分働いているか検証が必要だ。しかも遺族には、他の火葬場を選ぶ現実的な余地がほとんどない。
高い市場シェアの下で料金が上昇していることについては、競争が十分に働いているのか検証が必要だ。
公正取引委員会が2017年に公表した「葬儀の取引に関する実態調査報告書」は、葬儀業者と納入業者間の取引において、納入業者へのアンケートでは、葬儀業者から「優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為」を一つ以上受けたとの回答が、1451件の取引のうち434件、29.9%に上った。
弱い立場の取引相手から搾取しやすい構造
葬儀という「死の周辺事業」全体が、取引上弱い立場の事業者に不利益が生じやすい構造を内包している。火葬の独占はその中核にある。
2026年6月3日付の特別区長会の要望は、この歪みを正すための最低限の処方箋だ。要望が求めているのは経営の自由の剥奪ではない。実質的な支配者が代わる際に、監督官庁が関与できる法的根拠を設けよ、ということだ。
電力会社や通信事業者であれば当然あるべきガバナンスを、火葬事業にも適用せよという要求に過ぎない。
一部には「民間のビジネスに国家が介入するのか」という反論があるかもしれない。だがその指摘は的を射ていないと言わざるを得ない。
そもそも厚生省の通知が原則として民間営利企業の参入を認めていない事業において、例外的に独占を許されてきた企業に対し、経営権の変更時に監督官庁が関与できる仕組みを求めることは、介入の強化ではなく、制度の論理的帰結だ。
異常なのは要望を出した特別区長会ではなく、78年間にわたって法的空白を放置し続けた厚労省のほうである。

