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大阪・天満のストリップ劇場「東洋ショー」を万博前に摘発…は社会として「正しい」のか? 「いかがわしいものを含めて人間」公共訴訟が問う”人間性”とは

大阪・天満のストリップ劇場「東洋ショー」を万博前に摘発…は社会として「正しい」のか? 「いかがわしいものを含めて人間」公共訴訟が問う”人間性”とは

タトゥーにクラブ文化、そしてストリップ劇場――。「そんなものはなくてもいい」とお上に切り捨てられがちな存在や文化の自由を、公共訴訟は守ろうとする。コロナ禍の持続化給付金も性風俗事業者にだけは払われなかったが、それは社会的に「正しい」ことなのだろうか?

弁護士の亀石倫子氏と、哲学者の朱喜哲氏が、人間の欲望を「無い」ものにする危険性や、「正しさ」だけでは息苦しくなってしまう社会について語り合う。
*本記事は2026年6月3日、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店で行われたトークを編集、採録したものです。

「正しくなさ」を「無い」ことにしてはダメなんだ

 公共訴訟の中には、公害の話とか、ある意味、非の打ちどころなく、本当に何の落ち度もない被害者で、皆に同情されやすいケースもある一方で、「タトゥー訴訟」のように、「タトゥーなんか入れなきゃいいじゃん、私は入れないし」とか、クラブ風営法違反訴訟のように「夜にクラブなんか行かなきゃいいじゃん」なんて言われかねないことがあり得るじゃないですか。

亀石 そうですね、はい。

 でも、タトゥーとか入れ墨って私たちの社会にずっとあったし、クラブに行くという行動も選択肢としてあり得るし、「私がそれをやってもいいんだ」という自由の範疇なわけですよね。公共訴訟がそういうことのためにも闘ってくれている、という点がすごく大事で。

公共訴訟のような社会的な関心をもつ弁護士の先生というと、いわゆる「正義の味方」というか「清廉潔白」で「まったく後ろ暗いところがない正しさ」みたいなものを背負っている、と思う人もいるかもしれませんが、私たちの社会というのは、もちろんそれだけでやっていけるわけではない。

これはまさに私の研究しているリチャード・ローティが言っていることでもあるんです。公共の場である市場「バザール」では、どんな人がいるか分からないから、お互い発言に気をつけたりしなきゃいけない。お互い気を遣い合うんだ、と。でも、それだけだとやっぱり人間社会って、ちょっと息が詰まったりする。

公共の場ではないことにされている、人の何か後ろ暗い部分とか、欲望とかもあるかもしれない。それを「無い」ことにしてしまうと、どこかで噴き出してしまうかもしれないから、そういう、いわゆる「正しくなさ」を無いことにしてはダメなんだ、という観点がローティの面白いところで。それらを無視したり抑圧したりすると、むしろしっぺ返しが来るんだ、と彼は言っているんですね。

亀石 そうですね。

 それがローティの有名な主張です。「トランプ現象を予言した」と、彼の死後に言われるんですが……。

「正しさが振りかざされてしまう社会が続くと、やっぱりどこかで、正しくないことを大声で叫んでくれる政治家とかが、ある種、逆説的に支持を集めてしまう」と。つまり「俺たちが言えない本音を言ってくれた!」みたいになってしまう。そういうストロングマン、強い男みたいなのが現れてしまうよ、というのがローティの当時の予言だったんです。

亀石 なるほどね。

 その処方箋というわけじゃないんですけれど、ローティは言うんです。人間社会はバザールだけじゃなくて、クラブみたいな、ちょっと暗がりがあって。このクラブといわゆるナイトクラブとはちょっと意味が違いますけど、でもやっぱり「暗がり」があったり、メンバーシップがあったり。あるいはナイトクラブにおいても、確かに大事な側面かもしれないですね。

その場の人がお互い、音楽を楽しみに来ているという「共通感」があったり、その中でちょっとリラックスして、昼間のグチが言えるかもしれない、とか、昼間のストレスを発散できるかもしれない。そういう場所があるからこそ、私たちの社会は何とか回っていくんだよ、と。「明るいバザール」と、「ちょっと暗がりがあるクラブ」と。

いかがわしいものを含めて社会なんだ

亀石 コロナ禍での国の休業要請で、いろんなお店が休業した中に性風俗店などもあったんですけど、持続化給付金とか家賃支援給付金を、国は性風俗事業者にだけは払わなかったということがあって。「これは職業差別じゃないか」という裁判を私は担当したんですよね。持続化給付金とかが払われなかった性風俗事業者の中には、ストリップ劇場も入っていたんですよ。大阪の、この辺だったら、東洋ショー劇場というのが、天満にあるんですけど、行ったことある人いますか。あります?

 はい、大阪に来たばかりの頃に連れて行っていただいたことがあります。

亀石 私、すごく好きで、もう何回も行っているんですけど。いろんなストリップ劇場に、その裁判をやった御縁で行って、踊り子さんの話を聞いたりして。

国はやっぱりああいうのを「いかがわしいものだ」と。何だったら「街の中からなくなってほしいものだ」と位置づけているわけです。大阪万博が始まる前に、東洋ショー劇場が摘発されて、一定期間、営業できない状態になって。これは「万博やっている間だけでも閉めといてくれ」ということだと思うんですよ。だって、東洋ショーはずっと毎日毎日営業しているんだから。それまでだって、いつでも摘発しようと思えばできるのに、していなくて。万博が始まるタイミングで摘発したわけです。さじ加減一つですよね。

何かそういうふうに、ちょっとでもいかがわしいものとかを、街の中から排除していく。

だけど、私が踊り子さんに話を聞いたときに、

「いかがわしいものとか、いろんなものを含めて人間だし、それが街を作っているし、それが社会なんだから、そういうのを全部排除する、真っ白に漂白されたようなことにするのは、何かおかしいと思う」っておっしゃっていて。「自分はやっぱり、そういういかがわしさも含めた人間として表現をしたいんだ」と。

私、すごく共感したし、何か感動するんですよ、ストリップを見ると。

最近、ストリップに女性のお客さんもすごく多いんですけど、ステージを見て、感動して泣いたりしているんですよ。私も初めて見たとき、けっこう感動して泣きそうになったんですよね。

というのは、「何かエロいものだ」と思って行ったんだけど……素っ裸で踊るわけだから、たしかにエロいんですけど。「エロい気持ちにさせなきゃいけない」というのも、踊り子さんは思っているんですけど、ただそれだけじゃないんですよね。

何かもう、アスリートのようでもあり、美しくもあり、本当にすごい、見たこともないような表現なんです。その表現力とかに私は本当に感動しました。「自分の体一つで闘っている感じ」というか、女の人だったら、きっと分かってもらえるんじゃないかと思うんですけど。そういうのがあったんです。

少し話がズレてしまいましたが、でも何か、そういうのも含めて社会だという感じがするんです。

 そうなんですよね。まさに、ローティという哲学者が考えていた社会のバランスと、合致することがたくさんあって。今回『はじめての公共訴訟』の帯文に書かせてもらったこともそうでしたし、書評も書かせていただいたんですけど、そういうことって、実はすごく大事で。

司法は英語で言うとjustice(ジャスティス)ですよね。ジャスティスってやっぱり、「正義」「正しいこと」という意味と直結されて使われがちですが、「それだけじゃない」ということは、すごく大事なんです。

「正しい」というのは「いいこと」と結び付けられて、「道徳的に正しい」とか「モラルがある」というのと直結されがちですけれど、justiceって、語源的な話からしても、字面もそうですけど、just(ジャスト)と同じですから、「バランスが取れている」とか「釣り合っている」とか、そういう状態を指すものなんですよね。

だから、司法の象徴である、擬人化された「テミス」という女神は、目隠しをして天秤を持っている姿です。「主観が入らない」ということと「釣り合いを取る」ということですね。だから、「正しさ」を背負って裁くという――。

「裁く」という意味合いも、「責める」とか「滅ぼす」みたいなことじゃなくて「釣り合いを取る」という、ここがすごく大事ですし、「目隠しする」というのも、自分の主観じゃないんだ、ということで。もちろんそれは難しくて常にできることではないんですが、ジャスティスの理念には、それが入っている。そこがすごく大事だと思います。

そのときに、こういった公共訴訟を中心とした司法の今のあり方に「どうやって市民が参加しながら、みんなのための司法をやるのか」ということを実践していらっしゃるCALL4という公共訴訟の支援プラットフォーム(これは日本初で、今のところ唯一です)とか、そのための弁護士の集団であるLEDGEという取り組みって、これまでの人権派弁護士、社会派弁護士とは、けっこう違うものだと私は思っているんです。

亀石 確かにそうですね。もし私が「人権派弁護士」と言われたら、ちょっと自分で違和感があります。

 そうかもしれないですね。

亀石 あと、いわゆるポリコレ(ポリティカリー・コレクト、政治的に正しい)みたいなものとも、すごく違う感じがしますね。

 もちろん、「人権」のような重要な価値を守るべく「絶対この一線を譲らない」ということの大切さもあることを大前提としながら、こうした「正しさ」を掲げるだけではバランスが難しいときもあるんですよね。「正しくないことまで含めて、私たちの自由のために闘うんだ」ということをやってくださっていることが、すごく画期的なことだと思います。

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