人生100年時代と言われる昨今、働き方や家族のあり方、学び方など生き方そのものが多様に変化してきている。人生の転機をチャンスに変えた人たちは、次のステップをどう踏み出したのだろう?
消費もものづくりも、責任ある選択をしていきたい
ニュージーランドでの経験に加え、サステナブルなファッションについて考えるようになったきっかけは、2013年にバングラディシュで起きた「ラナ・プラザ崩落事故」の映像を収録したドキュメンタリー作品『ザ・トゥルーコスト〜ファストファッション 真の代償〜』を視聴したこと。
「安い報酬で働き、事故に巻き込まれたバングラディシュの女性が『あなたたちの幸せは私たちの血と汗と涙の上に成り立っているんです』と涙ながらに訴えていたのが頭から離れなくて。消費もものづくりも、きちんと考えて行動していかなくては。という思いを抱きました。例えば安価な服を3着購入するコストで、良いものを1着購入して長く大切に使う。サステナブルなプロジェクトや、それを支える職人さんの技術に意識を向けていただくだけでも流れは変わります。その選択肢の一つとして、トゥイカウリを加えていただけたらうれしいです」
オーガニックのコットンリネンに、ボタニカルダイでグラデーション染めや絞り染めを施したコレクション。オーガニックコットンリネン ハーフスリーブシャツ ¥29,700 オーガニックコットンリネン グラデーションスカート ¥46,200 オーガニックコットンリネン グラデーションドレス ¥60,500
通常は糸を漂白し糸のカスをなくすところを、あえて綿の葉や茎のカスを残した天然の表情をそのまま生かした。温かみのあるグラデーション染めが生地の風合いを引き立てる。
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“心地よさ”から始まる幸せな循環を目指して
トゥイカウリの始動にあたり、全国各地の工場に足を運び、日本ならではの技術に触れる一方、職人の後継者問題なども知ったという上野さん。優れた技術にスポットを当てることも、プロジェクトのミッションのひとつにしていきたいと語る。
この日着用していたスカートとビスチェ付きのシャツは、通常は捨てられてしまう残布をアップサイクルしたもの。日本に数台しかないという手織り機を使い、職人が1日に数メートルずつ織り上げた貴重なツイード素材を、華やかで女性らしい衣装に仕立てた。このアイテムは、今後受注生産という形で販売する予定だそう。
「様々な規模の工場を見学して様々な生地に触れ、オートマティックな機械では作れない職人技の素晴らしさを知り、それを伝えていきたいと思いました。私が衣装として着用することで、素敵な服の存在を知っていただきたいですし、より多くの方に着ていただけるよう、着心地よく着映えするデザインにこだわりました」
上野さんの出身地である兵庫県加古川市は、かつて毛織り業の中核を担う都市として知られていたものの、現在日本国内の繊維業は海外製品に押されている。しかし毛織り業は特に奥が深く、まだ未知数の可能性が秘められている。2021年の年末から、加古川市の観光大使を務める上野さんにとって、地元の産業にスポットを当てることも今後の目標のひとつ。
「トゥイカウリを通して、自然の素材と優れた技術、人と人、職人さんの情熱や思いを繋げていく役割を果たしていけたらと思っています。自然から派生したもの、信念のあるものをまとっていると、まずは自分が心地よいですし、その心地良さから醸し出される美しさが、自然と周りにも伝播していく。そんな幸せな循環を生み出していけたら」
そう真っ直ぐに語る上野さんの新しい挑戦は始まったばかり。彼女のフィルターを通してどんなプロダクトが生まれ、どんなストーリーを紡いでいくのか、今後も目が離せない。
現在トゥイカウリの公式サイトではデビューコレクションの予約を受付中。9月から取り扱い店舗やポップアップストアでの本格的な展開を予定している。
photo: Tomoko Hagimoto interview & text: Eriko Azuma