全国で24万4,940人。この数字は2021年度に「不登校」とみなされた小・中学生の人数(※)で、過去最多を記録しました。
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参考:文部科学省「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(外部リンク/PDF)
年間30日以上欠席している長期欠席者数は41万人にも及ぶ。参考:NPO法人カタリバ資料より
文部科学省では、学校の役割は「全ての子どもが自立して社会で生き、個人として豊かな人生を送ることができるよう、その基礎となる力を培う場」(※)とされていますが、現在、その居場所に行くことができない子どもが増えているのも現状です。
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参考:文部科学省「時代の変化に伴う学校と地域の在り方について」(外部リンク)
そんな不登校の子どもを対象に、居場所づくりやオンラインによる学習支援などに取り組んでいるのが認定NPO法人カタリバ(外部リンク)。2021年より、さまざまな理由から学校に行くことができない子どもとその家族を対象に、メタバース空間(※)を活用したオンライン不登校支援プログラム「room-K」(外部リンク)というサービスを立ち上げました。
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コンピューターグラフィック(CG)で表現された仮想空間のこと。アバターと呼ばれる自分の分身を作り、メタバース内で操作することができる
今回、「room-K」の事業担当者、萬代奈保子(まんだい・なほこ)さんに、プログラムの内容や、メタバース×教育の可能性、実際に参画している自治体や教育関係者、子どもたちの声などについてお話を伺いました。
認定NPO法人カタリバの「room-K」事業を担当している萬代さん
さまざまな社会変化が不登校増加の理由に
――過去最大となった不登校児童の人数ですが、年々増え続けている要因としてどのようなことが挙げられるでしょうか?
萬代さん(以下、敬称略):一概に限定できるわけではなく、多様な問題が含まれていると考えています。
まず挙げられるのが「教育機会確保法」(外部リンク)の施行です。不登校の子どもに対して、学校外など多様な学びの場を提供することを目的とした法律で、これが施行されたことで、それぞれに合った学習環境で学ぶことが容認され、親御さんも学校側も「無理に登校させることだけが正解ではないのでは」と考え方が変化してきたように感じます。
――他にはどのような要因が考えられますか?
萬代:SNSやネットの普及も要因の1つとして考えられるのではないでしょうか。いまの時代、子どもたちは学校だけでなくLINEなどのSNSでもつながっています。学校での関係性が学校外と地続きになってしまい、不安を感じる要因の増加や心休まる時間が減っていることも、関係しているかもしれません。
他にも、近年は発達障害などの問題が顕在化・認知されてきました。このように不登校の要因は一つに特定できるものではなく、社会の変化など複合的な要因から不登校の子どもたちが増加していると推察しています。
――さまざまな要因が絡んでいるんですね。カタリバがそういった子どもたちに居場所を届けようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
萬代:きっかけは2011年の東日本大震災です。それまでは高校に出向き高校生たちと少し年上の大人の出会いをつくる「出張授業カタリバ」という事業を主に展開していました。しかし震災で学ぶ場を失い、夢を諦めた子ども、希望の学校に進めず挫折した子どもを増やしたくないという思いから、学習支援と居場所づくりを目的とした「コラボ・スクール」(外部リンク)という、放課後学校のような活動を始めました。
それをきっかけに非日常だけではなく、日常的に子どもたちに関わる必要があると感じ、現在までさまざまな事業を展開しております。
コラボ・スクールは宮城県女川町や岩手県大槌町などで設立された。(現在カタリバが運営するのは大槌臨学舎のみ)画像提供:認定NPO法人カタリバ
――2021年には、不登校の小中学生に特化したオンライン支援プログラム「room-K」を立ち上げています。こちらはどういった経緯で立ち上がったのでしょうか?
萬代:新型コロナウイルスによる一斉休校で、子どもたちの居場所が失われてしまったことがきっかけです。「早急に何とかしないといけない!」と思い、一斉休校となってから2、3日後にカタリバオンラインという事業を立ち上げました。
当時は子どもや家庭の状況に制限を設けず、誰でも来られるオンラインの居場所として運営をしていたのですが、一斉休校が終わって登校していた子どもが通学を始めると、不登校の子が残り、「これまで不登校の子に居場所がなかったのでは?」ということに気付かされました。
不登校の子に対しての「オンライン支援」というのも、不登校支援の新しい手段になると感じ、カタリバオンラインは従来通りオンラインコミュニティサービスとして運営を続け、新しく不登校支援プログラム「room-K」が立ち上がったんです。
目指す姿としては、「子どもたちが社会と再びつながり、自分らしい学びの形を探す。その子にとっての次の一歩に寄り添うオンラインの教育支援センター」という風に説明しています。オンライン支援への接続がゴールなのではなく、リアルの場への接続含め、その子にとっての次の一歩に寄り添うことを大切にしているため、自治体・学校・教育支援センター等の公的リソースとの連携も大切にしたいと考えています。
「room-K」が次のステップのための「心の栄養補給所」になってほしい。そういった気持ちで運営を行っています。
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支援計画コーディネーターとメンターで子どもと保護者を支援
room-Kでの様子。スタッフも子どもも、このメタバース空間でコミュニケーションをとる。画像提供:認定NPO法人カタリバ
――「room-K」ではどのような支援を行なっているのでしょうか?
萬代: まず行うのは支援チームの立ち上げと支援計画の作成です。入会時に子どもと保護者から現状や思いをヒアリングし、子どもの状況も鑑みながら、その子の状況にあった支援・学習計画を作成します。
支援チームには子どもと保護者の他に、1対1で子どもに寄り添う伴走者「メンター」と、保護者のケアや支援計画をたてチームをリードする「支援計画コーディネーター」がいます。
メンターは全国から募集し研修を受けたスタッフが、支援計画コーディネーターは子ども支援や教育経験が2年以上ある人が担当することになっており、チーム体制を組んで家庭に寄り添い、丁寧に伴走していきます。
必要に応じて、社会福祉士や臨床心理士などの専門家とも連携を図って家庭に伴走している。画像提供:認定NPO法人カタリバ
萬代:支援をする上で大切にしているのは、まずは、メンターとの1対1の信頼関係構築により、「room-K」でホッとできる居場所・関係性をつくってもらうことです。その中で他人と交わることへの恐怖心や不安感を取り除いてもらうことが第一のステップだと考えています。
そこから自分の好きを見つけたり、いろんなことに興味・関心を持って自信をつけ、前に進んでいってもらいたいですね。
――子どもへの関わり方がとても重要になってくる気がします。伴走チーム内の「メンター」の役割をもう少し具体的に教えてください。
萬代:メンターは支援計画コーディネーターが立てた支援計画に基づいて、週に1回程度子どもと個別面談(作戦会議)を行います。まずはお互いを知る会話からスタートし、今の子ども心の状況や興味関心を読み取りつつ、次の小さなチャレンジについて話し合います。
少し年上のお兄さんやお姉さんのような「ナナメの関係」の立ち位置で子どもと接しながら意欲を育み、「room-K」が用意するプログラムに参加する等、次の一歩に寄り添います。
――プログラムにはどういったものを提供しているのでしょうか?
萬代:まずは学ぶことの楽しさを感じてもらうことを重視し、個別型・集団型が選べるなど、子どもの状況に配慮した構成となっています。クラブ活動、教科ワークショップ、学習支援プログラム、居場所型プログラムの4種類を用意しています。
「クラブ活動」は、Minecraftなどさまざまなツールを使用(※)して人とつながりを持つことの楽しさを感じてもらい意欲を育むことを目指しており、「教科ワークショップ」では教科学習に抵抗感がある子でも、まずは興味のあることを入り口に5教科を楽しく学んでもらえるようなプログラム作りを目指しています。
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room-K内プログラムであり、Minecraft公式のものではなくMojangとは関係ありません
「学習支援プログラム」では、自分のペースで勉強したい人向けで、使用する教材が自由なオンライン自習室のようなプログラムや、AIドリルを活用して学ぶプログラムがあります。分からないところは、すぐ質問できるようにスタッフが待機しています。
「居場所型プログラム」は、いつでも安心できるみんなの居場所という立ち位置です。朝の会や帰りの会のようにテーマに沿ってお話ししたり、room-Kや集団活動に慣れることを目指しています。
その他、高校受験に向けた進路プログラム等の特別プログラムも開催中です。
プログラムの中には、専門スキルをもつ企業や、ものづくり系ワークショップを企画している方に委託しているものもあるという。画像提供:認定NPO法人カタリバ
――楽しそうなプログラムですね。room-Kを利用するにはパソコンやタブレットが必須ということでしょうか?
萬代:GIGAスクール構想(※)によって、1人1台端末を配布されていますので、自宅所有の端末がない子でもroom-Kを利用できるように、連携している自治体に協力いただき、学校配布端末の調整をしています。
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全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み
――現状、どれくらいの自治体と連携しているのでしょうか?
萬代:2023年4月の段階で、8の自治体、1つの中学校と連携させていただいています。
既に不登校支援の整備を努力されている自治体に対し、オンライン支援という方法で支援の行き届かない子どもたちに新たな選択肢を提供することは重要なことだと感じております。