後悔しています…定年退職直後〈毎月分配型〉投資信託を買った64歳男性の嘆き【CFPが解説】

投資信託のあらまし

まず筆者は夫婦に、次のように毎月分配型投資信託の要点を説明しました。

「投資信託」とは、投資家(Aさんなどその投資信託を購入した人のこと)から集めた資金を元手に、専門家(ファンドマネージャー)が運用方針に基づいた国内外の株式や債券などに分散投資して運用する金融商品です。

そして運用した成果は、投資家のそれぞれの出資額に応じて分配します。運用成果が景気などの投資環境により変動する、元本保証のない金融商品です。

また、購入時の手数料や運用中の信託報酬、売約時には信託財産留保額といった費用がかかります。特に信託報酬は、運用期間中毎日必要な経費で、信託財産から間接的に支払われているのです。

そのため、投資家は購入を検討している投資信託の「目論見書」から、その商品の目的や特色、リスク、運用実績、費用などを事前に理解し、投資を始めることが大切です。

投資信託の収益

投資信託は、①売却益と②分配金を得ることができます。

①売却益

投資信託を売買する時の価格を「基準価格」と言い毎日変動します。購入後基準価格が上がったタイミングで売却すれば、売却益(キャピタルゲイン)を得ることができます。この利益は譲渡所得として課税されます。

②分配金

分配金は、決算日ごとに運用会社が定めた分配方針により、投資家に分配されます。分配金には、投資家の収益となる「普通分配金」と、元本の一部を払い戻す「特別分配金」の2種類があります。なお、分配金額は、Aさんがそうであったように増額・減額されるケースや、まったく支払われない可能性もあります。

<普通分配金>

普通分配金(インカムゲイン)は、運用で得られた利益から支払われます。そのため、所得税・住民税の課税対象となります。


[図表2」普通分配金のイメージ
出所:筆者が作成

<特別分配金>

特別分配金は、主に図表3のような2つのケースがあります。利益ではなく個別元本から支払われる分配金ですので運用資金は減っていきます。実質元本の一部の払い戻しにあたりその部分は非課税です。

[図表3]特別分配金のイメージ 出所:筆者が作成

Aさんは、受取った分配金が同額でも、投資信託の運用が[図表2]や[図表3]の状況だったことに気付いていなかったのです。

毎月分配型のメリット・デメリットとは?

毎月分配型投資信託のメリット・デメリットは次の通りです。

<メリット>
・投資信託を売却せず、運用を続けながら、毎月利益が確保できる
・毎月の生活費や小遣いに充てることができる
・ほかの金融商品への投資資金にできる

<デメリット>
・毎月、普通分配金には約20%課税される
・運用益を分配金に支払う分、再投資の資金が減り、複利効果※を得にくい
 ※複利効果とは、投資で得られた利益をそのまま再投資することで、利益がまた利益を生みだす効果のこと
・毎月分配するために「個別元本」を切り崩しかねない(図表3)。また、切り崩して運用しても投資家は信託報酬が必要で、利回りが「マイナス」になりかねない

なお、2024年1月1日からの新NISA「成長投資枠」で購入できる金融商品に、安定的な資産形成の観点から「毎月分配型の投資信託」は除外されています。

投資信託はほかの金融商品と同様「長期分散投資」が基本です。ただし、老後の時間は十分にあっても、運用できる心身は短期間です。そこで、60歳以降に退職金の一部で投資信託を始めるには、次のように心がけることが大切です。

1.当面必要としない余剰資金額を明確にして、複数の銘柄に投資するときもその余剰資金内で投資する。また、 運用損益の限度額を定め、その金額に達したら運用は終える
2.投資目的を定める。目的のない投資はしない
3.「目論見書」を熟読して商品内容を理解してから運用する投資信託を決める
4.月1万円ほどの少額で、事前に投資信託の運用を実践してみる
5.投資信託は向かないと思ったら、損益にかかわらず売却する
6.運用実績は、販売会社(銀行、証券会社など)の「自分のページ」に表示されるので見方に慣れる。また、定期的に「自分のページ」の「トータルリターン※」を確認する
※一定期間内に投資商品への投資から得られる総合収益のこと。

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A夫婦は立ち直れた

現在のA家の貯蓄残高は約1,500万円です。今後夫婦は[図表1]のように年金も受給でき貯蓄の取崩しは少なくなるでしょう。従って、Aさんが購入した投資信託は、家計に深刻な影響を与えるほどではなさそうです。

また、この投資信託をAさんと確認したところ運用成績は回復傾向で、これまでの分配金の金額などを含めたトータルリターンを確認すると、夫婦が心配するほどの損失ではありませんでした。

そこで今後は、追加投資はせず、また分配金も再投資に変更し、しばらくは運用を続けることにしました。

ここまで説明すると夫婦は安心したようです。そしてAさんは「いやあ、ほんとうに後悔しています。高い勉強代でした。会社員時代の先輩たちが退職金で運用を始めたと話しても、その後の運用成績を教えてくれないわけはこれか……まさに安易な投資だったな」と、納得した様子で話してくれました。