不動産の相続手続きを自分でする方法とは?手順や必要書類、注意点を解説

不動産を相続した時の名義変更手続きは自分でもできますが、申請の際に不備が発生しやすいため、司法書士などの専門家に任せた方がよいでしょう。自分で手続きをするのであれば、流れや必要書類などをよく確認することが大切です。本記事では、不動産を相続した時に名義変更をする方法や注意点などを解説します。

【パターン別】相続手続きの違い

遺言書の有無や相続の仕方によって、相続手続きの流れや必要書類などに違いがあります。ここでは、ケース別に相続手続きの違いをみていきましょう。

法定相続分どおりの相続の場合

法定相続分とは、民法で定められている各相続人が相続する遺産の相続割合のことです。
法定相続分にしたがって遺産分割をする時は、まずは亡くなった人にどれほどの遺産があるのかを調査しましょう。

遺産の全体像を把握できたら、法定相続分に沿って遺産を分割します。各相続人の法定相続分は、以下のとおり誰が相続人となるかで決まります。

同じ順位の相続人が複数いる場合は、均等に分けます。

例えば、法定相続人が配偶者、長女、長男の合計三人であったとしましょう。遺産の総額が1億円である場合、法定相続分にしたがって分割すると以下のとおりとなります。

・配偶者:1億円×1/2=5,000万円
・長女:1億円×1/2×1/2=2,500万円
・長男:1億円×1/2×1/2=2,500万円

法定相続分にしたがって相続する場合、遺産分割協議書の作成は必要ありません。

遺産分割協議での相続の場合

亡くなった人が遺言書を残していない場合や、遺言書の記載内容に相続人全員が反対した時は、遺産分割協議をして誰がどのように遺産を引き継ぐのかを決めます。

遺産分割協議をする場合は、相続登記の申請書を作成する前に、協議を終えて遺産分割協議書を作成しましょう。手順は、以下のとおりです。

1.相続登記に必要な書類を集める
2.遺産分割協議をする
3.遺産分割協議書を作成する
4.登記申請書を作成する
5.法務局で申請をする
6.登記識別情報通知(権利証)を受け取る

相続登記をする際、遺産分割協議書を提出します。また、遺産分割協議書に実印が押されていることを証明するために、相続人全員の印鑑登録証明書を、申請書に添付します。

自筆証書遺言がある場合

故人が自筆証書遺言を残していた場合は、開封する前に家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。

検認とは、相続人に対して遺言の存在や記載内容を知らせる手続きのことです。遺言書の状態や日付、署名などを明確にし、偽造・変造を防止することが検認の主な目的です。
自筆証書遺言がある場合の手順は、以下のとおりとなります。

1.相続登記に必要な書類を集める
2.自筆証書遺言を開封する前に家庭裁判所で検認を受ける
3.登記申請書を作成する
4.法務局へ申請する
5.登記識別情報通知(権利証)を受け取る

ただし「遺言書保管制度」により、自筆証書遺言が法務局に保管されていた場合は、家庭裁判所による検認は不要です。

公正証書遺言がある場合

公正証書遺言とは、遺言を残す人が公証人に口頭で内容を伝えて代わりに作成してもらう遺言書のことです。

亡くなった人が公正証書遺言を作成していた場合、原本が公証役場に保管されています。遺言書を捜索する際は、公証役場に公正証書遺言が保管されていないか確認してみるとよいでしょう。
公正証書遺言を開封する際、家庭裁判所の検認を受ける必要はないため、相続登記の手順が通常とほとんど変わりません。

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不動産の相続手続きを専門家に依頼した方がいいケース

不動産の相続手続きは自分自身でもできますが、以下のようなケースに該当する場合は専門家に依頼した方がよいでしょう。

・相続する不動産が複数ある場合
・イレギュラーな相続が発生している場合
・相続した登記が未登記である場合
・相続人同士でトラブルが発生しそうな場合
・手続きがスムーズにできない場合

1つずつ解説します。

相続する不動産が複数ある場合

複数の不動産を相続する場合、それらが同じ法務局で管轄されていれば、一括して相続登記の申請ができます。しかし、管轄される法務局が異なる不動産を相続した場合は、一括での申請はできません。

相続人が単独で、複数の相続登記を申請するのはなかなか骨が折れるものです。そのため、複数の不動産を相続する時は、司法書士に登記手続きを任せた方がよいでしょう。

イレギュラーな相続が発生している場合

イレギュラーな相続が発生し、相続関係が複雑になる場合は、司法書士に必要書類の収集や申請書の作成、申請手続きを任せた方がよいといえます。イレギュラーな相続の例は、次のとおりです。

・被相続人が離婚と再婚を繰り返している
・被相続人に認知した子がいる
・代襲相続が発生している

代襲相続とは、被相続人が亡くなった時にすでに相続人が死亡している場合、その相続人の子供や孫が遺産を相続することです。
本来の相続人が兄弟姉妹だった場合、代襲相続が発生すると甥や姪が遺産を相続するため、相続人の数が多くなりやすいです。

イレギュラーな相続では、戸籍謄本を入念に確認して、法定相続人を正確に特定する必要があります。法定相続人の特定を誤ると、正確に遺産を分割できません。また、相続人が複数いると集める書類の数も多くなるため、収集に時間や手間がかかりやすくなります。

イレギュラーな相続は、手続きのハードルが高くなり、失敗が発生しやすくなるため、専門家に協力を依頼するのがおすすめです。

相続した不動産が未登記の場合

これまで相続登記は任意であったため、不動産の名義が変更されずにそのままとなっているケースも多々あります。相続した不動産の名義が変更されていない場合は、複数回にわたって相続手続きが必要となります。

例えば「父親から相続した不動産の名義が何十年も前に亡くなった祖父になっていた」といったケースの場合、祖父から父親、父親から子供と2回の相続登記をしなければなりません。

名義が変更されていない不動産を相続すると、必要書類も増えるため申請手続きに手間がかかりやすくなります。また、旧民法が絡んでくることもあり、法律的な専門知識が求められるため、未登記の不動産を相続した時は司法書士に依頼した方がよいといえます。

相続人同士でトラブルになりそうな場合

相続人同士の仲が悪い場合、相続手続きに必要な書類を集める時に協力をしてくれないかもしれません。また、遺産分割協議をして遺産の引き継ぎ方を決める時、不仲が原因で協議が進まないこともあります。

相続登記をするためには、基本的に誰が不動産を相続するか決まっている必要があります。相続人同士のトラブルに発展する可能性がある時は、当事者のみで無理に解決しようとはせず、弁護士に相談をするとよいでしょう。

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手続きがスムーズに行えない場合

スムーズに相続登記の手続きができない可能性がある時も、専門家に協力してもらうとよいでしょう。相続登記の手続きが困難になりやすいケースの例は、以下のとおりです。

・相続人が多忙で時間がとれない
・遠方の不動産を相続することになった
・相続税の納税資金を準備するために不動産を売却しなくてはいけない

仕事や子育てなどで忙しく、法務局や市区町村役場に出向いたり、申請書を作成したりするための時間を割くのが難しい場合は、司法書士に依頼した方がよいでしょう。

また相続登記は、名義を変更する不動産の所在地を管轄する法務局で手続きをする必要があります。相続する不動産と現在の居住地が離れているのであれば、司法書士に依頼した方がスムーズです。

不動産を売却して相続税の納税資金を準備する場合も、司法書士に手続きを依頼するのがよいでしょう。相続税の申告期限は、相続の開始があった日の翌日から10ヶ月以内であり、その日までに不動産を売却して申告納税手続きまで済ませる必要があるためです。