賃貸借契約をする時、実は入居者に発生する義務が多くあります。
どの義務もしっかりと果たすべきものではありますが、なかには契約解除につながったり、大きな出費が必要になったりする重要な義務も存在します。
特に注意しておきたいのが「善管注意義務」です。
善管注意義務は、賃貸借契約には欠かせない義務の1つであるため、聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
今回は、善管注意義務の意味や違反について、違反を防ぐためのポイント、あわせて覚えておきたい義務などについてご紹介します。
違反を避けるためのメンテナンス方法も詳しくご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

善管注意義務とは?

善管注意義務は、賃貸借契約を結ぶ際にもよく出てくる言葉の1つです。
正確な名称は「善良なる管理者の注意義務」で、民法第400条に規定されている義務となります。
難しそうなイメージがありますが、実際は一般常識的なことになるため、簡単に理解できる内容がほとんどです。
まずは、善管注意義務の概念や要求されるシーンについて見ていきましょう。

善管注意義務の基本的な概念

善管注意義務を簡単に説明すると、「常識的に守るべき注意を怠らないようにする義務」という意味になります。
善管注意義務は、中古車や美術品などにも発生する義務ですが、賃貸借契約においては日頃から掃除などを行い、物件を大切にするということが求められます。

善管注意義務が要求されるシーン

民法第400条によると、善管注意義務は「特定物の引き渡し前に要求される」と規定されています。
賃貸物件の場合、契約した時点から契約が終了して物件を明け渡すまで、入居者は善管注意義務を果たさなければなりません。
また、善管注意義務の範囲は、壁から床、窓、水回りなど借りている部屋の専有部すべてとなります。
また、共有部でもバルコニーや駐車場、専用庭など専有使用権がある部分も対象範囲です。
そのため、汚れや破損・不具合が見られる場合はお手入れをしたり、大家さん・管理会社などに連絡して修理してもらったりする必要があります。
なお、善管注意義務を果たしていることが明確であり、経年劣化による自然な破損等は入居者の過失にはなりません。

(広告の後にも続きます)

善管注意義務に違反するとどうなる?

善管注意義務に違反するとどうなるのでしょうか。
違反に該当する事例と違反した時に発生するリスクについて見ていきます。

善管注意義務の違反に該当する事例

善管注意義務違反となるのは、借主が社会一般的に求められるレベルの管理を怠り、物件の劣化が早まったり、破損してしまったりした時です。
対処することによって防げるケースでありながら、対処しないという行為自体も善管注意義務違反とみなされます。
以下は、善管注意義務違反に該当する事例です。

・こぼした飲み物を放置してフローリングにカビが生えた
・水回りの掃除を怠り、甚大なカビや汚れが発生した
・普通のお手入れでは解消できない汚損がある
・結露を放置し、シミや腐敗を招いた
・壁に穴を開けて下地ボードを損傷させた
・エアコンのフィルター清掃を怠り、エアコンが故障した
・排水口の清掃を怠り、詰まりが発生した
・階下への水漏れを大家さんへ通知せず放置し、物件に被害が生じた

これらは、日頃からの掃除や物件を大切にしようとする意識、賃貸契約書の確認などで回避できます。

違反するとどうなる?

善管注意義務に違反すると、貸主に預けていた敷金が返還されない可能性があります。
敷金は通常、家賃を滞納した時や原状回復のための清掃・補修に使われるものです。
家賃をしっかり払っており、補修の必要もないという場合、退去時に返金される仕組みになっています。

しかし、善管注意義務違反が原因で部屋に破損・損耗が見られる場合は、その敷金から修繕費が差し引かれてしまうのです。
破損や損耗が甚大であれば、返金されるどころか追加で修繕費を支払う必要が出てくるケースもあります。
敷金の返金はもちろん、予想外の出費が発生しないよう、注意義務はしっかりと果たしましょう。

また、下階への水漏れなど、物件に大きな被害が発生すると、損害賠償が請求されてしまうケースがあるため注意が必要です。
借主が部屋で自殺・殺人事件を犯した場合も損害賠償の対象となる可能性があります。
自殺や殺人は物理的な損傷ではないものの、心理的な欠点になり得るため、善管注意義務違反に該当するのです。
物件の価値が急激に下がってしまうこともあり、損害賠償請求は免れないでしょう。
気になる火災に関しては、故意や重大な過失でない限り、損害賠償が求められることはありません。