ある計画を実行

聞けば彼女は、仕事と趣味の時間を大切にしていて、オシャレや化粧も好きではなく、普段していないため慣れていないのだとか。

そこで私は、「あなたは結婚する気がないのに、何度もお見合いをする必要があるんでしょうか?」と核心をついてみました。

「両親には言ったんだけど……。心配らしくて、いつも次の人の話を持ってくるのよ」と答える彼女。

それなら、とひらめいた私は「ご両親を説得できるまで俺とうまくいっていることにしませんか? そうしたら、しばらくはお見合いなんてしなくて済むでしょう?」と提案することに。

「え!? ご迷惑じゃ……」と驚いた社長令嬢に、酒の勢いもあったのか、私は気軽に請け負いました。「大丈夫ですよ! 俺には恋人もいないし、付き合っているフリくらい簡単ですよ。実際に俺と会う必要はありません。落ち着いたら、改めて破談にしちゃいましょう。今日の料理のお礼です」

こうして、恐縮していた彼女を押し切って、私たちは口裏を合わせることに。ひっそりとお見合いを終えたのです。

(広告の後にも続きます)

数週間後…

数週間後、私は再び上司に呼ばれました。「実はこの前の君の企画なんだけど、△△食品と共同開発をすることになった。そこで担当を任せたいんだよ」と言うのです。これにはビックリ。「実は、社長さんがあの企画を気に入ってくれてね。企画者である君をご指名なんだ」と説明されました。

娘さんとお見合い後、恋人のふりまでした私。父親である社長をだましたという引け目を感じ、ドキドキしながら打ち合わせ日を迎えました。△△食品へと足を運んだ私が会議室の扉を開けると……。

そこには社長令嬢の姿がありました。しかも、見合い日には派手な着物と似合わないひょっとこみたいな化粧だった彼女が、今日はナチュラルメイクでシンプルな服に身を包み、まるで別人でした。

「実は私、今回の件は私が開発担当なんです。よろしくお願いします」

実は彼女、あの後ちゃんと両親と話をし、まだ結婚には興味がないことをわかってもらえたのだとか。

「でも、御社からすばらしい企画が舞い込んできて。企画者はあなただと聞いてビックリでしたが、ぜひ一緒にお仕事をしたいと思ったんです」

こうして私たちは、一緒に新商品の開発を進めることになりました。令嬢との仕事は刺激的で楽しく、毎日があっという間に経過。彼女は、出自におごらず、頭脳明晰(めいせき)で周りからの信頼も厚く、明るいすてきな人柄で、一緒に働くには最高のパートナーだったのです。