「看護師を辞めて漫画家になります」

──看護師になり、オペ室や病棟勤務を経験したと聞きました。そこから漫画家に転身しようと思ったきっかけは?

美術系に進んだ友人の仕事を見聞きして「羨ましいな」と思っていたのと、病棟に勤務しているとき絵を描いている患者さんがいて、「私も描きたいな」と思うようになったんです。

そんなことを考えていたら、海外で働く兄から突然電話が来て「60歳まで看護師を続けられるの? 漫画家になりたかったんじゃないの?」みたいな話をされて。普段あまり話をしない兄にそんなことを言われたものだから、心に刺さりました。

少し考えて「60歳まで看護師を続けられないな。漫画家になろう!」と決めて、看護師長に「漫画家になるので辞めます」と伝えました。

師長も同僚も「漫画描いてたの!?」と、突然の退職に驚いていましたね。でもみなさん応援してくださいました。

──退職する前はどのような漫画を描いていたんですか?

描いていないですよ(笑)。仕事が忙しすぎて描く時間を確保できないので、仕事を辞めてから漫画家を目指そうと思ったんです。

──思い切りが良すぎますね……!

後先考えず行動するタイプなので、「なんとかなるっしょ!」のノリです。

まずは看護師寮から家賃2万円のアパートに引っ越して、漫画を描いてはコンテストに応募する生活を送りました。でもぜんぜん結果が出なくて……。

漫画を描きながら単発のアルバイトをしていたものの、貯金が徐々に減っていって、ついに2万円を切ってしまいました。お金がないと明日をどう生きるかで頭がいっぱいになって、漫画どころじゃなくなるんです。なので、クリニックに就職して看護師としてフルタイムで働きながら、夜に漫画を描いていました。そんな生活が6年くらい続きましたね。

──まさに「手に職」ですね。ヤングマガジンで『オペ看』を連載していたのはその時期ですか?

そうです。講談社にDAYS NEOというクリエイターと編集者のマッチングサービスがあり、作品を投稿すると講談社の編集者がコメントをくれたりオファーが届いたりするんです。そこに投稿したところヤングマガジンの編集者さんが「一緒に作品を作りましょう」と声をかけてくださって、毎週20から40ページぐらいネーム(下描き)を描くようになりました。

初めに描いたのは看護師の異世界転生ものだったのですが、「手術室での勤務経験を漫画にしたほうがいい」とアドバイスをいただき、『オペ看』を描きました。その作品が編集会議を通り、ヤングマガジンでの連載が決まったんです。

週刊連載が始まるとフルタイムでの勤務が難しくなり、クリニックに退職したいと伝えました。でも、パートでもいいから続けてほしいと引き止められ、週2日勤務にしてもらったんです。

週刊誌の連載はうれしかったものの、作品を作り続けることが大変でしたし、何より手術室の現場ではありえない展開を盛り込まなければならないことにストレスを感じ始めました。

それでブログに描きたい作品を投稿して、やりたい放題やったんです。

──ブログに好きなことを投稿したら読者が定着したんですね。ライブドアブログでは月間2,000万PVを超えたとか。これはすごいことですよね。

初めはぜんぜん読まれなかったですよ。一日7PVくらい。そのうちの5PVは自分みたいな(笑)。それでも毎日作品をアップしているうちに読者が増えていきました。

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週刊誌での連載、テレビアニメ化。次の夢は?

──尊敬する漫画家はいますか?

さくらももこさんが大好きです。私も『ちびまる子ちゃん』のような、何気ない日常を描いた作品を作り続けたいと思っています。

もちろん『コジコジ』もすごく好きです。子どものころから読んでいますが、大人になってから読むとまた違った視点で見えたり、哲学を感じられたりして楽しみ方が増えるんです。そんな作品を描きたくて『あげおとティム』を作りました。

大きな夢や目標を持たない生き物たちが、社会の波にもまれ、変わりたいと悩んだり、「このままでいっか」と肩の力を抜いたりしながら、自分なりの答えを見つけて生きていく物語

自分の作品をアニメ化する夢はかなったので、次はドラマ化したいと思い、今は脚本を書いています。これが思っていたよりずっと大変で。エッセイ漫画を文字に起こせばいいやと思っていたらまったくの別物、表現方法が違うんです。

絵は一枚で状況を伝えられるじゃないですか。脚本は短い言葉で状況を伝える表現力が必要ですし、セリフのない“間”の表現が難しくて、2本書くのに1ヶ月かかりました。

──元看護師(助産師)の脚本家といえば、ドラマ『silent』の生方美久さんが有名ですよね。

生方さんのインタビューは何度も読みました! 働きながら休日に脚本を書いて、退職してから映画学校に通われていたんですよね。生方さんが受賞したフジテレビヤングシナリオ大賞の作品も読みました。文章がきれいにまとまっていて情景が目に浮かびますし、独特なセリフ回しが心に響きました。

脚本づくりは漫画と違う奥深さがあっておもしろいです。私も人の心を動かす脚本を書いてドラマ化できるよう頑張ります。

人間まお関連リンク

人間まおが描いたみんなの体験記(Kindleインディーズ)オペ看(ヤングマガジン)私、オペ看なんですけど異世界で役に立ちますか?  (リイドカフェコミックス)