日銀は、3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決定しました。2016年1月から導入されていたマイナス金利でしたが、今回の決定により、マイナス0.1%であった政策金利を0~0.1%程度に引き上げ、長短金利の操作(イールドカーブ・コントロール)やETFの買い入れなどもこれで終了となりました。 

これまでは、円安で海外からの観光客が爆増している反面、日本人が海外に行くとハンバーガーすら高くて買うのをためらう状況でした。しかし、今回のマイナス金利解除を受けて「円高になるぞ!」と思っていた多くの人たちの希望を尻目に、発表後はむしろ円安がじわじわと進んでいます。

これはなぜでしょうか?そして、この円安はまだまだ続き、海外旅行は当分の間お預けとなるのでしょうか?今回は、マイナス金利解除が為替に及ぼす影響について考えてみます。

そもそもマイナス金利とは?


マイナス金利
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企業などが業務の決済を行うための専用の預金を、「当座預金」といいます。当座預金とは現金の代わりに手形や小切手の決済などを専門に行う預金のことで、多くの企業では決済のためにこの当座預金が使われています。

金融機関もこの当座預金を日銀に開設しており、金融機関同士や日銀・国などとの決済では、この日銀当座預金が使われています。

マイナス金利とは、この日銀当座預金に金融機関が預けている資金の一部に対してマイナスの金利を課し、預金者である金融機関が日銀に金利を支払うように定めた特殊なルールなのです。

マイナス金利政策の目的

マイナス金利政策の目的は、金融機関が企業へ資金を貸し出すことを促進させ、デフレ経済から脱却させることです。金融機関が日銀当座預金に預けるとデメリットが生じるようにすれば、資金は当座預金から引き出されます。しかし、引き出した資金をそのまま持っているだけでは金融機関にとってマイナスとなるため、投資などへ回さざるを得ません。その結果、金融機関の持つ資金が市中へ流れると考えたわけです。

また、マイナス金利になると金融機関の貸付金利は低くなるため、企業は低金利で資金調達が可能になります。

こうしたさまざまな効果を期待し、経済活動を活発にさせることがマイナス金利政策の目的でした。

マイナス金利を解除した理由

日銀がマイナス金利を解除した理由は、賃金の上昇を伴う形で物価が上昇し、「賃金と物価の好循環」が実現できたと判断したためです。

コロナ禍で急激に落ち込んだ経済活動が再開し、皆さんもご存知のように、物価は上がり続けています。また春闘では多くの大企業が賃上げを実現し、中小企業はまだまだこれからですが、少しずつ明るい兆しが見え始めています。

こうした理由により、マイナス金利の解除が決定したのです。

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マイナス金利解除で何が起こる?


チェック
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では次に、マイナス金利が解除されたことにより何が生じるかについて整理してみます。マイナス金利解除によって生じると考えられるのは、おもに以下の4つです。

金利の上昇

マイナス金利が解除され、金利が引き上がると、預金を銀行に預ける際の預金金利が上がります。これは良い点ですが、企業などが資金調達する際の金利も上昇し、住宅ローン金利も同様に上がることが考えられます。

円高へのシフト

円安ドル高の理由のひとつは、日米の金利差です。圧倒的に高利回りの米ドルに対し、ほぼ金利の付かない日本円では到底太刀打ちできません。

これだけが円安の理由ではありませんが、マイナス金利が解除され、金利が上昇すれば日米の金利差は解消に向かうと考えられます。したがって、これまでの円安から円高へシフトすることが考えられます。

株価の下落

金融機関の貸出金利が上昇すれば、企業は資金調達を控えるようになります。もちろんこの程度の金利の上昇では株価に大きな影響は出ませんが、今後も上がり続けるようであれば、株価への影響は避けられません。

国債価格の下落

金利と債券価格はお互い逆方向に動く性質を持っているため、金利が上がれば国債価格は下落します。したがって、順調に金利が上がり続ければ、日本国債の価格は徐々に下落していくことが考えられます。